TAMA音楽フォーラム

若手演奏家育成とクラシック音楽の振興を目指します

活動履歴2017

セミナーの内容

2017.1.9.(月・祝)15〜18時

演 奏:郷古 廉(ヴァイオリン)、加藤 洋之(ピアノ)

 
《コンサートプログラム》
ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番 ニ長調
op.12-1

バルトーク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第2番
べートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第2番 ニ長調 op.12-2
バルトーク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1
 
 
 


2017.2.18.(土)15〜18時

レクチャー&コンサート
講 師 :藤本 一子(音楽学)
演 奏:戸原 直(ヴァイオリン)、奈良 希愛(ピアノ)、谷地畝 晶子(アルト)

 
《コンサートプログラム》
ブラームス:歌曲《教会の墓地にて》 

ブラームス:ヴァイオリンソナタ第3番 ニ短調
op.108
 
 
 
 


2017.3.12.(日)15〜18時

公開レッスン&コンサート
講 師 :山崎 伸子(チェロ)
共 演 :津田 裕也(ピアノ)

 
《コンサートプログラム》
ドビュッシー:チェロソナタ
ショパン:チェロソナタ

《受講生》

内山 剛博:チェロ    桐朋学園大学音楽学部1年、
追川 礼章:ピアノ 東京藝術大学大学院ソルフェージュ科に在籍。


水野 優也:チェロ 桐朋学園大学音楽学部ソリスト・ディプロマ・コース1年 
神谷 悠生:ピアノ 桐朋学園大学音楽学部カレッジ・ディプロマ・コース修了。


2017.4.16.(日)15時開演

レクチャー&コンサート
演 奏 :The Rev Saxophone Quartet
上野耕平(Sop.)宮越悠貴(Alt.)都築 惇(Ten.)田中奏一朗(Bar.)

 
《コンサートプログラム》


J.S.バッハ:G線上のアリア
J.リヴィエ:グラーヴェとプレスト
J-B.サンジュレー:サクソフォン四重奏曲 より 第1楽章
A.グラズノフ:サクソフォン四重奏曲 第2楽章 カンツォーナ・ヴァリエより テーマ
E.ボザ:アンダンテとスケルツォ
F.シュミット:サクソフォン四重奏曲より第4楽章
M.ラヴェル(旭井翔一編曲):クープランの墓 より プレリュード、フーガ、リゴドン
N.カプースチン(宮越悠貴編曲):24の前奏曲より 12,9,17
A.デザンクロ:サクソフォン四重奏曲
 

セミナーレポート

J.ブラームスの後期室内楽
「ヴァイオリンソナタ第3番」希望の響き、歌曲<教会墓地で>を背景に

 

 2017年2月18日(土)15:00開演
       スタジオ・コンチェルティーノ
 
今日は音楽学者の藤本一子さん(元・国立音楽大学教授/東京芸術大学講師)によるレクチャー・コンサートである。3年前のシューマンの室内楽に続き、今回はブラームスの後期室内楽、特にヴァイオリンソナタ第3番とその歌曲との関連に焦点を合わせた内容となった。
藤本さんは最初にスクリーンにブラームスの生地ドイツ・ハンブルクの遠景を映し、次いで同地のブラームス記念館と洗礼を受けたプロテスタントの聖ミヒャエル教会の写真を見せた。教会前にはルターの銅像が立っている。そのうえで、藤本さんは、ベートーヴェンの後のドイツ民衆的、プロテスタント的な古典的作曲家というブラームス像とは違う面が最近の研究で次第に明らかになってきていると指摘した。ブラームスが活動した19世紀後半においては、シューマンの評価のほうが高く、ブラームスはむしろ伝統的で古臭いとみられていた。しかし、近年では、繊細で複雑なブラームス像が浮かびあがり、シェーンベルクへの橋渡し的な位置があたえられるようになった。
 ブラームスの後期室内楽にはシューマンの影響の中に、死を恐れる人間像が刻まれている。「神よ、我は何により生きているのか」このような思いが後期のブラームス音楽に反映している。
 1886年、夏の滞在地、スイスのトゥーン湖で後期室内楽4作品が完成ないし作曲が開始された。チェロソナタ第2番作品99、ヴァイオリンソナタ第2番作品100、ピアノ3重奏曲作品101、そして完成が2年後となるヴァイオリンソナタ第3番作品108という4傑作である。
 藤本さんによるとこの4作品はいずれも「下行4度」の多用を特徴とする。「下行4度」は不安定な完全協和音程で、バロック音楽理論では「疑念・嘆き」を示す。この例として、J.S.バッハの平均律曲集第122曲のフーガ変ロ短調を例に挙げ、ピアニストの奈良希愛さん(国立音楽大学准教授)が冒頭を弾いてくれた。ブラームスはチェロソナタ第2番の出だしで4度上行した後4度下降することや、ヴァイオリンソナタ第2番の始まりでは、下行4度を繰り返して、イ長調主和音の定着を試みた。ピアノ3重奏第3番では強烈に主和音を提示した後、「下行4度」半音を導入して厳粛感を出す。ヴァイオリンソナタ第3番では4度上行したあと「下行4度」へ移る主題を提示している。このように彼はまことに多彩な音楽をここで作っている。
 3つのヴァイオリンソナタはそれぞれ自作の歌曲と関連している。第1番作品78は「雨の歌」と「余韻」、第2番作品100は「メロディーのように」や「来てすぐに」、第3番は「教会墓地で」、「嘆き」、それにシューマンの「春の到来」、また歌曲ではないが、ブラームスの「11のコラール前奏曲」作品122に関連している。
 さて、きょう、中心になって取り上げる第3番ニ短調のソナタは2年の推敲を経て1888年に完成し、珍しくも献呈者つきで出版された。3つの楽章からなる。第1楽章アレグロの第1主題は歌曲「教会墓地で」のエオリア調のコラール旋律(もとは17世紀の受難歌とされる)に基づいている。「下行4度」が示す嘆き、「減7和音」の示す欠如、またため息と戸惑いが表現されている。第2楽章アダージョの中間の重音部分はハンガリー風の哀感があり、主題の旋律は歌曲「嘆き」(「青春は過ぎ去った、今は冬、今は冬」)からとられている。第3楽章の少しプレストで情感を込めて(嬰ヘ短調)は、特に歌曲旋律を用いていないが、
要所に「下方4度」が出て、経過部では「教会墓地」でのエオリアン・ハープ音型が現れる。第4楽章プレスト・アジタートの主題はやはり「下方4度」で経過部にハープ音型が出る。第2主題の旋律はシューマンの歌曲「春の到来」(「暗い日々が過ぎ…花たちは天を見上げて咲く、心よ快活で大胆であれ!」)を引用している。
 こうしてみるとブラームスはこの4つの楽章を通じて、悲嘆と願望から快活な喜びに向かって、歌曲の旋律を使いながら希望の響きを奏でているといえよう。また作風は一見伝統的なのだが和声法は新しい。1889年ブラームスはクラーラにあてた手紙でソナタ第3番について「この作品をあなたが心和んで弾いてくれるなら嬉しいのです」と書いている。
 でも、これだけではまだブラームスの素晴らしさを十分に述べたとは言えない。
 第1楽章をもう一度詳しく見てみよう。伝統的なソナタ形式だが随所に近代性がある。たとえば提示部ではピアノ部がユニゾンをずらすことでためらいを表現し、和声をふくらませている。また、歌曲「教会の墓場」の「嵐」の音型が様々な箇所で侵入し、前進をためらわせる。展開部は本来の役割を捨てて、美しい霧の中に沈潜するようで、最も魅力的なところとなる。ここではイの保続音のうえで、バロック的分散和音が近代的な和声の揺らめきに包まれる。コーダでは、第1主題がフォルテで登場し、霧の楽句で前進をたじろがせるが、最後はニ長調の高みで閉じる。このように、ロマン主義の後の現実の中で、新たな抒情を再構築しながら、慈しみと希望がうたわれる。
 ブラームスが初めてシューマン家を訪れた1853年、すでにロマン主義は終わりを告げていた。この中でブラームスは苦悩しつつ、新しい未来を切り開いたのである。
 藤本さんは最後に「今日のお話によって、皆様にブラームスの新しい景色が見えたと思って下さったら、とてもうれしいです」と語った。
 休憩の後、コンサートに移り、藤本さんのレクチャーに従って、ブラームス作品が演奏された。まず、「5つの歌曲」作品105から4曲。第1曲「メロディーのように」、第2曲「私のまどろみは、いよいよかすかに」、第3曲「嘆き」、第4曲「教会墓地で」。これは谷地畝晶子さん(岩手大学、岩手県立大学講師)のアルト、奈良希愛さんのピアノで演奏された。
 続いてヴァイオリンソナタ第3番作品108の全4楽章を戸原直さん(東京芸術大学院修士課程2年)のヴァイオリンと奈良さんのピアノで演奏された。
 アンコールとして、谷地畝さんが再登場し、ヴァイオリンをヴィオラに持ち替えた戸原さんと奈良さんのピアノにより、ブラームスの「2つの歌」作品91の第2曲「宗教的な子守歌」が夕べの静寂のなかをしみじみと流れていき、この充実したレクチャー・コンサートを締めくくった。(記録:西谷晋)
 
 

公開レッスン&コンサート
「ドビュッシーのチェロソナタ」

 

2017312日(日)15時 スタジオ・コンチェルティーノ
 
 
講 師:  山崎 伸子(チェロ)
共 演:  津田 裕也(ピアノ)
 
 
 
 「きょうこそ春、このところ冬と春が行ったり来たりでした。きのう紀尾井ホールでシューマンの(交響曲第1番)『春』を聴きました。ようやく春が来た感じです」――岡山潔TAMA音楽フォーラム代表は開口一番、春の訪れを宣言した。スタジオ・コンチェルティーノの辺りは長い斜面に植えられた梅の花がほぼ終わり、人家の庭先の白いモクレンが目立つ。頬に当たるそよ風は少し冷たいが、着込んでいるせいで、5分も歩くと汗ばんでくる。お天気にも恵まれて、聴講席は満員になった。
 
 この日の公開レッスンの講師はチェロの山崎伸子・桐朋学園大学特任教授(東京藝術大学名誉教授)で、俗に印象(主義)派などと呼ばれるフランスの作曲家クロード・ドビュッシー(1862~1918年)が最晩年に作曲したチェロソナタ・ニ短調(1915年)を受講曲に選んだ。彼はそれぞれ楽器が異なる6つのソナタの作曲を計画したが、すでに重い大腸がんを患っていたためか、完成したのはこのチェロソナタを含む3曲だけだった。作曲家唯一のチェロソナタとされ、プロローグ、セレナード、フィナーレの3楽章で構成、長くはないが、高度な演奏技術と豊かな感受性が要求される難曲だ。
 
山崎先生が用意したローラン・マニュエルによる解説資料(遠山公一訳)には「夢幻と謎に満ちた柔和なプロローグが終わると、曲は辛辣で気まぐれに跳ねまわるセレナードを迎え、少しの間夢を見るような物悲しさに戻るものの、終曲は陽気で快活さにあふれている」とある。
 
 受講生はaとbの二組で、aはチェロが桐朋学園大音楽学部1年の内山剛博、ピアノが東京藝大大学院ソルフェージュ科の追川礼章、bはチェロが桐朋学園大ソリスト・ディプロマ・コース1年の水野優也、ピアノが桐朋学園大カレッジ・ディプロマ・コースの神谷悠生のそれぞれお二人。まずa組が通して演奏した。終始、笑顔で聴いていた山崎先生は「すばらしかったですよ」と言って奏者を落ち着かせ、第1楽章からレッスンを始めた。チェロの内山君に「上着は脱いだ方がいいのでは」「右の肩の位置が動かないように」とまず注意、続けて、弦に弓を当てる位置や左手指による弦の押さえ方といった基本動作を指導する。さらに「音色がきこえてこない」「初速を速く、響きを引っ張る感じで」と注文をつけ、自ら繰り返し手本を示すなど、熱のこもったレッスンになった。
 
 b組もまず通して演奏。山崎先生は「勢いがあってすばらしいですね。第2楽章からやりましょうか」「ドビュッシーはストラヴィンスキーのバレエ『ペトルーシュカ』のなかで、人形が目覚めて、だんだん動き出すところを連想して、ピチカートを使い、ピアニッシモで表現した・・・」と解説し、弦に当てる弓の位置を変化させて立体感を出すとか、弓のスピードの使い分け、ピアノのペダルの使い方など、まず技術面を指導。
 
 次に山崎先生はお二人に第2楽章はどんな感じがするか質問した。チェロの水野君は深海のイメージ、動かない感じなどと言い、ピアノの神谷君は感情が発散する感じ、だるい感じなどと答える。先生は「チェロとピアノとで感じ方が違うので、作曲家が楽譜に封じ込めた表情を取り出すには、二人で議論して表情を決める必要がある」と注文をつけた。そして、作曲当時、ドビュッシーは病気で、痛みがあったからか息苦しいような音のところもある、それでも作曲家は生きる喜びを感じていた、第一次大戦でフランスがだめになっていく不安といった心理状態や時代背景が千変万化の音色に織り込まれている、などと付け加えた。
 
楽譜には書いてない多くのことがらを学び、表情を磨きあげて、息の合った演奏をするには並大抵でない努力が必要なことは素人の筆者にも理解できる。4人の受講生の皆さんのさらなる精進と飛躍に期待したい。
 
 コンサートでは山崎先生のチェロと最近の活躍が注目される若手ピアニスト、津田裕也氏の共演で、ドビュッシーのチェロソナタ、さらにフレデリック・ショパンのチェロソナタ・ト短調(Op.65)の2曲。「上手な生徒のあとは弾きづらいですね。緊張してしまって・・・」と冗談を言ってから、ドビュッシーの模範演奏。まさに千変万化の響がいっぱいに広がった。ショパンの曲(最晩年の1846年に作曲、友人でチェリストのオーギュスト・フランショームに献呈された)は「ピアノの詩人」らしくピアノが大活躍。大きな拍手にこたえて、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」が演奏された。(走尾 正敬)