TAMA音楽フォーラム

若手演奏家育成とクラシック音楽の振興を目指します

活動履歴2017

セミナーの内容

2017.1.9.(月・祝)15〜18時

演 奏:郷古 廉(ヴァイオリン)、加藤 洋之(ピアノ)

 
《コンサートプログラム》
ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番 ニ長調
op.12-1

バルトーク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第2番
べートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第2番 ニ長調 op.12-2
バルトーク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1
 
 
 


2017.2.18.(土)15〜18時

レクチャー&コンサート
講 師 :藤本 一子(音楽学)
演 奏:戸原 直(ヴァイオリン)、奈良 希愛(ピアノ)、谷地畝 晶子(アルト)

 
《コンサートプログラム》
ブラームス:歌曲《教会の墓地にて》 

ブラームス:ヴァイオリンソナタ第3番 ニ短調
op.108
 
 
 
 


2017.3.12.(日)15〜18時

公開レッスン&コンサート
講 師 :山崎 伸子(チェロ)
共 演 :津田 裕也(ピアノ)

 
《コンサートプログラム》
ドビュッシー:チェロソナタ
ショパン:チェロソナタ

《受講生》

内山 剛博:チェロ    桐朋学園大学音楽学部1年、
追川 礼章:ピアノ 東京藝術大学大学院ソルフェージュ科に在籍。


水野 優也:チェロ 桐朋学園大学音楽学部ソリスト・ディプロマ・コース1年 
神谷 悠生:ピアノ 桐朋学園大学音楽学部カレッジ・ディプロマ・コース修了。


2017.4.16.(日)15時開演

レクチャー&コンサート
演 奏 :The Rev Saxophone Quartet
上野耕平(Sop.)宮越悠貴(Alt.)都築 惇(Ten.)田中奏一朗(Bar.)

 
《コンサートプログラム》


J.S.バッハ:G線上のアリア
J.リヴィエ:グラーヴェとプレスト
J-B.サンジュレー:サクソフォン四重奏曲 より 第1楽章
A.グラズノフ:サクソフォン四重奏曲 第2楽章 カンツォーナ・ヴァリエより テーマ
E.ボザ:アンダンテとスケルツォ
F.シュミット:サクソフォン四重奏曲より第4楽章
M.ラヴェル(旭井翔一編曲):クープランの墓 より プレリュード、フーガ、リゴドン
N.カプースチン(宮越悠貴編曲):24の前奏曲より 12,9,17
A.デザンクロ:サクソフォン四重奏曲


 

2017.5.20.(土)15時開演

レクチャー&コンサート
演 奏:アントネッロ 
濱田芳通(リコーダー/コルネット)、石川かおり(ヴィオラ・ダ・ガンバ)、西山まりえ(トリプル・ハープ) 

 
《コンサートプログラム》
ソナタ第1番(ダリオ・カステッロ) Sonata prima (Dario Castello)  
涙のパヴァーヌ(ヨハン・ショープ~ジョン・ダウランド原曲) Lachrimae pavaen (Johann Schop)  
マドリガーレ《草原と丘》(フランチェスコ・ロニョーニ~パレストリーナ原曲) Madrigale “Vestiva i colli” (Bartolomeo de Selma /Palestrina)  
イギリスのナイチンゲール(ヤコブ・ファン・エイク) Engels Nachtegael (Jacob van Eyck)  
休憩  
フォリアス(アンドレア・ファルコニエーロ) Folías (Andrea Falconiero)  
フォリアス (アントニオ・マルティン・イ・コル編纂による) Folías (Antonio Martín y Coll) Arpa solo  
アリア《そよ風が吹けば》(ジローラモ・フレスコバルディ) Aria “Se l'aura spira” (Girolamo Frescobaldi)  
ソナタ『ラ・モニカ』(フィリップ・フリードリヒ・べデッカー) Sonata “La Monica”(Philipp Friedrich Boeddecker)Gamba solo  
チャコーナ(フィリッポ・ファン・ヴィッヒェル)Ciacogna (Philippo van Wichel)    
 
 
 


2017.6.10.(土)15〜18時

公開レッスン&コンサート
講 師 :植田 克己(ピアノ)
共 演 :玉井 菜採(ヴァイオリン)

 
《コンサートプログラム》
ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第6番op.30-1 
ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第7番op.30-2


《公開レッスン受講生》
・北田 千尋(ヴァイオリン)  桐朋学園大学音楽学部3年  守永 由香(ピアノ)     桐朋学園大学音楽学部3年   受講曲; ベートーヴェン ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第8番   ・飯守 朝子(ヴァイオリン) 東京藝術大学音楽学部4年  片岡 建人(ピアノ)     東京藝術大学音楽学部4年   受講曲; ベートーヴェン; ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第6番

 
 
 


2017.7.29.(土)15〜18時

公開レッスン&コンサート
講 師 :野平 一郎(ピアノ)
共 演 :中木 健二((チェロ)

 
《コンサートプログラム》
ショスタ コーヴィチ:チェロソナタ 他

 


2017.8.27.(日)15時開演

演 奏:ヨゼフ・スーク ピアノ四重奏団(プラハ)

 
《コンサートプログラム》
ドヴォルザーク:ピアノ四重奏曲第2番 変ホ長調 作品87
J.スーク:ピアノ四重奏曲 イ短調 作品1 他   

 
 


セミナーレポート

J.ブラームスの後期室内楽
「ヴァイオリンソナタ第3番」希望の響き、歌曲<教会墓地で>を背景に

 

 2017年2月18日(土)15:00開演
       スタジオ・コンチェルティーノ
 
今日は音楽学者の藤本一子さん(元・国立音楽大学教授/東京芸術大学講師)によるレクチャー・コンサートである。3年前のシューマンの室内楽に続き、今回はブラームスの後期室内楽、特にヴァイオリンソナタ第3番とその歌曲との関連に焦点を合わせた内容となった。
藤本さんは最初にスクリーンにブラームスの生地ドイツ・ハンブルクの遠景を映し、次いで同地のブラームス記念館と洗礼を受けたプロテスタントの聖ミヒャエル教会の写真を見せた。教会前にはルターの銅像が立っている。そのうえで、藤本さんは、ベートーヴェンの後のドイツ民衆的、プロテスタント的な古典的作曲家というブラームス像とは違う面が最近の研究で次第に明らかになってきていると指摘した。ブラームスが活動した19世紀後半においては、シューマンの評価のほうが高く、ブラームスはむしろ伝統的で古臭いとみられていた。しかし、近年では、繊細で複雑なブラームス像が浮かびあがり、シェーンベルクへの橋渡し的な位置があたえられるようになった。
 ブラームスの後期室内楽にはシューマンの影響の中に、死を恐れる人間像が刻まれている。「神よ、我は何により生きているのか」このような思いが後期のブラームス音楽に反映している。
 1886年、夏の滞在地、スイスのトゥーン湖で後期室内楽4作品が完成ないし作曲が開始された。チェロソナタ第2番作品99、ヴァイオリンソナタ第2番作品100、ピアノ3重奏曲作品101、そして完成が2年後となるヴァイオリンソナタ第3番作品108という4傑作である。
 藤本さんによるとこの4作品はいずれも「下行4度」の多用を特徴とする。「下行4度」は不安定な完全協和音程で、バロック音楽理論では「疑念・嘆き」を示す。この例として、J.S.バッハの平均律曲集第122曲のフーガ変ロ短調を例に挙げ、ピアニストの奈良希愛さん(国立音楽大学准教授)が冒頭を弾いてくれた。ブラームスはチェロソナタ第2番の出だしで4度上行した後4度下降することや、ヴァイオリンソナタ第2番の始まりでは、下行4度を繰り返して、イ長調主和音の定着を試みた。ピアノ3重奏第3番では強烈に主和音を提示した後、「下行4度」半音を導入して厳粛感を出す。ヴァイオリンソナタ第3番では4度上行したあと「下行4度」へ移る主題を提示している。このように彼はまことに多彩な音楽をここで作っている。
 3つのヴァイオリンソナタはそれぞれ自作の歌曲と関連している。第1番作品78は「雨の歌」と「余韻」、第2番作品100は「メロディーのように」や「来てすぐに」、第3番は「教会墓地で」、「嘆き」、それにシューマンの「春の到来」、また歌曲ではないが、ブラームスの「11のコラール前奏曲」作品122に関連している。
 さて、きょう、中心になって取り上げる第3番ニ短調のソナタは2年の推敲を経て1888年に完成し、珍しくも献呈者つきで出版された。3つの楽章からなる。第1楽章アレグロの第1主題は歌曲「教会墓地で」のエオリア調のコラール旋律(もとは17世紀の受難歌とされる)に基づいている。「下行4度」が示す嘆き、「減7和音」の示す欠如、またため息と戸惑いが表現されている。第2楽章アダージョの中間の重音部分はハンガリー風の哀感があり、主題の旋律は歌曲「嘆き」(「青春は過ぎ去った、今は冬、今は冬」)からとられている。第3楽章の少しプレストで情感を込めて(嬰ヘ短調)は、特に歌曲旋律を用いていないが、
要所に「下方4度」が出て、経過部では「教会墓地」でのエオリアン・ハープ音型が現れる。第4楽章プレスト・アジタートの主題はやはり「下方4度」で経過部にハープ音型が出る。第2主題の旋律はシューマンの歌曲「春の到来」(「暗い日々が過ぎ…花たちは天を見上げて咲く、心よ快活で大胆であれ!」)を引用している。
 こうしてみるとブラームスはこの4つの楽章を通じて、悲嘆と願望から快活な喜びに向かって、歌曲の旋律を使いながら希望の響きを奏でているといえよう。また作風は一見伝統的なのだが和声法は新しい。1889年ブラームスはクラーラにあてた手紙でソナタ第3番について「この作品をあなたが心和んで弾いてくれるなら嬉しいのです」と書いている。
 でも、これだけではまだブラームスの素晴らしさを十分に述べたとは言えない。
 第1楽章をもう一度詳しく見てみよう。伝統的なソナタ形式だが随所に近代性がある。たとえば提示部ではピアノ部がユニゾンをずらすことでためらいを表現し、和声をふくらませている。また、歌曲「教会の墓場」の「嵐」の音型が様々な箇所で侵入し、前進をためらわせる。展開部は本来の役割を捨てて、美しい霧の中に沈潜するようで、最も魅力的なところとなる。ここではイの保続音のうえで、バロック的分散和音が近代的な和声の揺らめきに包まれる。コーダでは、第1主題がフォルテで登場し、霧の楽句で前進をたじろがせるが、最後はニ長調の高みで閉じる。このように、ロマン主義の後の現実の中で、新たな抒情を再構築しながら、慈しみと希望がうたわれる。
 ブラームスが初めてシューマン家を訪れた1853年、すでにロマン主義は終わりを告げていた。この中でブラームスは苦悩しつつ、新しい未来を切り開いたのである。
 藤本さんは最後に「今日のお話によって、皆様にブラームスの新しい景色が見えたと思って下さったら、とてもうれしいです」と語った。
 休憩の後、コンサートに移り、藤本さんのレクチャーに従って、ブラームス作品が演奏された。まず、「5つの歌曲」作品105から4曲。第1曲「メロディーのように」、第2曲「私のまどろみは、いよいよかすかに」、第3曲「嘆き」、第4曲「教会墓地で」。これは谷地畝晶子さん(岩手大学、岩手県立大学講師)のアルト、奈良希愛さんのピアノで演奏された。
 続いてヴァイオリンソナタ第3番作品108の全4楽章を戸原直さん(東京芸術大学院修士課程2年)のヴァイオリンと奈良さんのピアノで演奏された。
 アンコールとして、谷地畝さんが再登場し、ヴァイオリンをヴィオラに持ち替えた戸原さんと奈良さんのピアノにより、ブラームスの「2つの歌」作品91の第2曲「宗教的な子守歌」が夕べの静寂のなかをしみじみと流れていき、この充実したレクチャー・コンサートを締めくくった。(記録:西谷晋)
 
 

公開レッスン&コンサート
「ドビュッシーのチェロソナタ」

 

2017312日(日)15時 スタジオ・コンチェルティーノ
 
 
講 師:  山崎 伸子(チェロ)
共 演:  津田 裕也(ピアノ)
 
 
 
 「きょうこそ春、このところ冬と春が行ったり来たりでした。きのう紀尾井ホールでシューマンの(交響曲第1番)『春』を聴きました。ようやく春が来た感じです」――岡山潔TAMA音楽フォーラム代表は開口一番、春の訪れを宣言した。スタジオ・コンチェルティーノの辺りは長い斜面に植えられた梅の花がほぼ終わり、人家の庭先の白いモクレンが目立つ。頬に当たるそよ風は少し冷たいが、着込んでいるせいで、5分も歩くと汗ばんでくる。お天気にも恵まれて、聴講席は満員になった。
 
 この日の公開レッスンの講師はチェロの山崎伸子・桐朋学園大学特任教授(東京藝術大学名誉教授)で、俗に印象(主義)派などと呼ばれるフランスの作曲家クロード・ドビュッシー(1862~1918年)が最晩年に作曲したチェロソナタ・ニ短調(1915年)を受講曲に選んだ。彼はそれぞれ楽器が異なる6つのソナタの作曲を計画したが、すでに重い大腸がんを患っていたためか、完成したのはこのチェロソナタを含む3曲だけだった。作曲家唯一のチェロソナタとされ、プロローグ、セレナード、フィナーレの3楽章で構成、長くはないが、高度な演奏技術と豊かな感受性が要求される難曲だ。
 
山崎先生が用意したローラン・マニュエルによる解説資料(遠山公一訳)には「夢幻と謎に満ちた柔和なプロローグが終わると、曲は辛辣で気まぐれに跳ねまわるセレナードを迎え、少しの間夢を見るような物悲しさに戻るものの、終曲は陽気で快活さにあふれている」とある。
 
 受講生はaとbの二組で、aはチェロが桐朋学園大音楽学部1年の内山剛博、ピアノが東京藝大大学院ソルフェージュ科の追川礼章、bはチェロが桐朋学園大ソリスト・ディプロマ・コース1年の水野優也、ピアノが桐朋学園大カレッジ・ディプロマ・コースの神谷悠生のそれぞれお二人。まずa組が通して演奏した。終始、笑顔で聴いていた山崎先生は「すばらしかったですよ」と言って奏者を落ち着かせ、第1楽章からレッスンを始めた。チェロの内山君に「上着は脱いだ方がいいのでは」「右の肩の位置が動かないように」とまず注意、続けて、弦に弓を当てる位置や左手指による弦の押さえ方といった基本動作を指導する。さらに「音色がきこえてこない」「初速を速く、響きを引っ張る感じで」と注文をつけ、自ら繰り返し手本を示すなど、熱のこもったレッスンになった。
 
 b組もまず通して演奏。山崎先生は「勢いがあってすばらしいですね。第2楽章からやりましょうか」「ドビュッシーはストラヴィンスキーのバレエ『ペトルーシュカ』のなかで、人形が目覚めて、だんだん動き出すところを連想して、ピチカートを使い、ピアニッシモで表現した・・・」と解説し、弦に当てる弓の位置を変化させて立体感を出すとか、弓のスピードの使い分け、ピアノのペダルの使い方など、まず技術面を指導。
 
 次に山崎先生はお二人に第2楽章はどんな感じがするか質問した。チェロの水野君は深海のイメージ、動かない感じなどと言い、ピアノの神谷君は感情が発散する感じ、だるい感じなどと答える。先生は「チェロとピアノとで感じ方が違うので、作曲家が楽譜に封じ込めた表情を取り出すには、二人で議論して表情を決める必要がある」と注文をつけた。そして、作曲当時、ドビュッシーは病気で、痛みがあったからか息苦しいような音のところもある、それでも作曲家は生きる喜びを感じていた、第一次大戦でフランスがだめになっていく不安といった心理状態や時代背景が千変万化の音色に織り込まれている、などと付け加えた。
 
楽譜には書いてない多くのことがらを学び、表情を磨きあげて、息の合った演奏をするには並大抵でない努力が必要なことは素人の筆者にも理解できる。4人の受講生の皆さんのさらなる精進と飛躍に期待したい。
 
 コンサートでは山崎先生のチェロと最近の活躍が注目される若手ピアニスト、津田裕也氏の共演で、ドビュッシーのチェロソナタ、さらにフレデリック・ショパンのチェロソナタ・ト短調(Op.65)の2曲。「上手な生徒のあとは弾きづらいですね。緊張してしまって・・・」と冗談を言ってから、ドビュッシーの模範演奏。まさに千変万化の響がいっぱいに広がった。ショパンの曲(最晩年の1846年に作曲、友人でチェリストのオーギュスト・フランショームに献呈された)は「ピアノの詩人」らしくピアノが大活躍。大きな拍手にこたえて、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」が演奏された。(走尾 正敬)
 
 
 

レクチャー & コンサート
 新進演奏家シリーズ
    ~サクソフォン四重奏の魅力

2017年4月16日(日) スタジオ・コンチェルティーノ     
 
演奏 :The Rev Saxophone Quartet
    ザ・レヴ・サクソフォン・クァルテット
   上野 耕平、宮越 悠貴、都築 惇、田中 奏一郎
 
 
 
 この日、スタジオ・コンチェルティーノに、開場以来初めて耳にする音色が響き渡った。いや「響き渡った」という表現はちょっと強すぎる。爽やかで凛としたハーモニーが、風のように吹き抜けた、というべきか。
 クラシック音楽愛好家にはあまり馴染みがないかもしれないサクソフォンという楽器、しかもそれぞれに音域、大きさの異なる4種類のサクソフォン重奏が、ここでどのように聴こえるのか、固唾を呑む思いで臨んだ聴衆は、その柔らかな音色に深く魅了され、盛んな拍手を贈り続けることになった。
 このところ、ソロの奏者としてもコンサート、テレビ出演などに引っ張りだこの上野耕平さんをリーダー格に、東京藝大で文字通り「同じ釜の飯を食べた」四人が2013年に結成したという「ザ・レヴ・クァルテット」(聞けば上野さんが最上級生で、宮越さんと都築さんはその一年下、田中さんが二年下とのこと)は、今年3月に東京文化会館小ホールでデビュー・リサイタルを行ったばかり。完売御礼の大成功となったこのリサイタルのずっと以前から、四人は学内で開催される藝大室内楽定期演奏会などで高い評価を得てきており、岡山潔・TAMA音楽フォーラム理事長によれば、当時から「音楽を追求する姿勢が素晴しく」、「近い将来、間違いなく大活躍してくれるだろう」と期待される存在だったという。
 革命とか回転とかを意味する Revolution という言葉を短縮し、「四輪駆動の車のように、四人が同じ方向へ走って行けるように」との思いから名付けられたという「レヴ」の名称は、まだ二十代半ばの若者たちにふさわしく、力強くて潔い。当初予定されていたプログラムが大幅に変更され、J.S. バッハの「G線上のアリア」に始まって、グラズノフ、F.シュミット、デザンクロのサクソフォン四重奏曲という、この分野の名曲をずらりと並べた曲目編成にも、大いなる意欲と熱意が感じられた。そして演奏は、一分の隙もないアンサンブルと、ダイナミックな強弱の対比が圧倒的で、これは過去何年間かにわたって四人が積み上げてきた緻密な練習の賜物なのだろう。
 ここ十年ないし二十年ほどの間に、日本でも欧米でも、十指に余るサクソフォン・クァルテットが結成され、継続して活躍中だが、「ザ・レヴ・クァルテット」はその中で既に、間違いなくトップ・クラスの実力を備えている。終演後にインタビューの機会があったので「ライバルは?」とちょっと意地悪な質問をぶつけたら、「えーと、この四人ですね」(上野さん)と見事に切り返された。たしかに、この日のレクチャーでも、サクソフォンならではの特色ある奏法(タンギング、フラジオレットなど)や、平均律と純正律の吹き分け方の相違といった興味深い話題を、四人それぞれが分担して説明してくれる。いずれもユーモアに溢れた余裕ある話しぶりで、お互いを認め合い尊重する姿勢と、チームワークの見事さ、それでいて存分に個性を発揮し合う、クアルテットのあり方の見本を見る思いがした。
 十九世紀半ばに、ベルギーのアドルフ・サックスによって「発明」されたサクソフォンという楽器には、まだ百七十年ほどの歴史しかない。その間、ジャズの分野では花形楽器として重用されてきたが、クラシックの、それも四重奏となると、オリジナルのレパートリーはかなり限定されてしまう。世界のサクソフォン・クァルテットを見渡しても、どうやってレパートリーを拡充していくかが重要な課題になっているようで、例えばバッハ作品(もともと楽器の指定がない『フーガの技法』とか、多くのオルガン曲とか)や、古今の弦楽合奏曲、弦楽四重奏曲などを編曲してレパートリーに加えるのが通例である。この日のプログラムにも、ウクライナの現代作曲家ニコライ・カプースチンの『24の前奏曲』からの3曲が入っていたが、ここで注目すべきは、編曲したのがアルト・サックスの宮越さんであることだろう。多作の人気作曲家カプースチンのピアノ曲を、サックス四重奏で聴くのはまことに新鮮な体験であり、クァルテットの中に編曲者がいるのは何よりの強みかもしれない。
 なお、弦楽器奏者には考えにくいことだが、サクソフォン奏者はソプラノもアルトもテナーもバリトンも、一人で吹いてしまう(ヴァイオリン奏者でチェロも弾けるという人はほとんどいないのだが)。「ザ・レヴ・クァルテット」の四人も、それぞれが四種類のサックスを自在にふきこなすそうで、「最近も公開の場でバリトン・サックス四重奏をやりました」とのこと。様々な可能性を追求し、若者の特権で前人未到の分野に踏み込もうとしている彼らが、今後どのように活動し、どんな新曲を披露してくれるのか、大いなる関心をもって見守りたい。そして願わくは、近いうちにスタジオ・コンチェルティーノに戻ってきて、また妙なるハーモニーを響かせてほしい。
(舟生素一)
 
 

レクチャー&コンサート
ルネッサンス音楽への誘い

 
講師:古楽アンサンブル「アントネッロ」
  (濱田芳通、石川かおり、西山まりえ)
2017年5月20日(土)15時開演 スタジオ・コンチェルティーノ
 
 TAMAフォーラム初めての古楽アンサンブルの登場である。ルネサンス後期、初期バロックの様々な曲をリコーダー奏者で古楽アンサンブル「アントネッロ」代表の濱田さんが主に解説しながら、順次3人によって演奏された。詳しい内容は説明しきれないが、当時の音楽演奏の自在さ、楽しさを満喫する風そよぐ5月にふさわしいさわやかなコンサートとなった。演奏された9曲は以下の通り。
①    ダリオ・カステッロ ソナタ第1番
②    ヨハン・ショープ~ジョン・ダウランド原曲 涙のパヴァーヌ
③    フランチェスコ・ロニョーニ~パレストリーナ原曲 マドリガーレ「草原と丘」
④    ヤコブ・ファン・エイク 天使のナイチンゲール
――――――休憩―――――――
⑤    アンドレア・ファルコニエーロ フォリアス
⑥    アントニオ・マルティン・イ・コル編纂による フォリアス(ハープ独奏)
⑦    ジローラモ・フレスコバルディ アリア「そよ風が吹けば」
⑧    フィリップ・フリードリヒ・ベデッカー ソナタ「ラ・モニカ」(ガンバ独奏)
⑨    フィリッポ・ファン・ヴィッヒェル チャコーナ
 
濱田さん中心のレクチャーの内容は概略次の通り。
*今日はルネサンスと初期バロック音楽だが、初期バロックとは普通バッハ、ヘンデル以前の音楽を指す。作曲家が専門職となる前だから、即興演奏家、編曲家、作曲家の境界は今と違ってあいまいだった。つまり楽譜は参考資料の意味合いが強かった。
*今日は前半を当時の装飾技法、後半はオスティナート(おもに低声部の反復音型)を中心に話を進める。
*装飾技法は曲の基本の音型がどんどん細分化していくものである。4部音符から8分音符へさらに16分音符へ細分化され、即興的となる。ジャズのアドリブのようなものであった。つまり当時の作曲家は編曲者、アレンジャーでもあった。
*濱田さん、①の主題をリコーダーで吹く。これはただの音階、それに装飾をつける。下降音型を変化させて見せる。そしてこの曲の後半にカデンツァ(即興的楽句)をつけて聞かせてくれる。
*私は桐朋学園で村井先生に即興とそのつなぎ方を教わった。バッハのカンタータ147番やモーツァルトのソナタを例に即興的装飾をして見せる。①の作曲者カステロもモーツアルトと同じく、自分の印象に残った音型をもとに次の音楽を紡いでいく。
*②はまさにショープの編曲で、装飾技法の好例といいながら、濱田さんのリコーダーと西山さんのハープで演奏される。
*③はヴィオラ・ダ・ガンバの石川さんが加わり3人の演奏。曲の終わりを盛り上げるためのカデンツァ装飾の楽譜を皆に見せてから演奏が始まる。この後イタリア民謡サンタルチアを例にルネサンス時代のカデンツァ装飾の大切さを示す。「フレーズの最後に花が咲く」。しかしルネサンスを過ぎると次第にこの装飾法はすたれていく。
*④のファン・エイクはオランダのユトレヒトの人でカリヨン隊を率い、オルガン、リコーダー奏者でもあった。リコーダー曲集に「笛の楽園」があり、当時のはやり歌や聖歌の音と音の間に装飾を入れて変奏する。この天使のナイチンゲールも当時のはやり歌に基づき、夜に泣く鶯の歌を模している。自在なイタリア式と家を守るようなドイツ式という音楽の二面性を指摘したうえで、まことにイタリア的で自在な濱田氏によるこの曲の「編曲版」が演奏された。
*休憩後、⑤を3重奏で演奏してから、コード進行、通奏低音の説明があった。バロック時代の通奏低音は数字が書いてあるだけで、適当に即興してくださいということだった。ここではポルトガル発祥のフォリアにこだわってみたい。フォリアは反復音型の変奏形式としてバロック時代にとても流行した。⑥は⑤のフォリアがハープ独奏用に編曲されたもの。ここで西山さんが弾くトリプル・ハープが紹介される。このハープには半音がないが、真ん中の弦を使って半音を出すのだという。
*濱田さんがコルネットを吹いて見せた後、⑦のアリアは3重奏で演奏された。それに続いてヴィオラ・ダ・ガンバが紹介された。ギターを縦にしたような楽器で、弓はコントラバスと同じようにもって弾く。そして、ハープ伴奏つきの独奏で、⑧が演奏された。
*⑨のチャコーナはフォリアの流れをくむシャコンヌであろう。プログラムの最後を締めるにふさわしい、3重奏によるまことに朗らかな楽しい舞曲であった。
 
 3人の演奏家は、鳴りやまぬ拍手に応えて、天使のナイチンゲールを再演した。そして濱田さんは、この曲の最後でリコーダーによるみごとなカデンツを聞かせてくれた。
TAMA音楽フォーラムの岡山潔代表が最後にあいさつし「皆様の表情からも、きょうのレクチャーと演奏が無条件に音楽の楽しさを伝えてくれたことがわかる」と称賛し、また来てもらいたいとの希望を述べた。
(出演者紹介)
古楽アンサンブル〈アントネッロ〉
1994年、濱田芳通を代表に設立。「作品が生まれたときの精神」を重視して、躍動感、生命力あふれる音楽の根源的魅力を追求している。リリースしたCDはフランスなど海外でも注目されている。2016年にG・カッチーニの「エウリディーチェ」を本邦初演するなど、上演機会の少ないバロック・オペラにも精力的に取り組んでいる。
濱田芳通
音楽一家の4代目。桐朋学園大学古楽器科卒業後、スイスのバーゼル・スコラ・カントルムに留学。リコーダー、コルネットなどの楽器演奏と指揮によりヨーロッパ各地で活躍中。20数年研究中の南蛮音楽も自身のライフワークという。
石川かおり
山梨大学教育学部在学中にヴィオラ・ダ・ガンバを始める。同大卒業後、バーゼル・スコラ・カントルムに留学。その後、ソリスト、通奏低音奏者として内外で活躍中。
西山まりえ
東京音大ピアノ科卒業。同大学チェンバロ科修了。イタリアのミラノ私立音楽院、バーゼル・スコラ・カントルムに留学。ヒストリカルハープ、チェンバロの研鑽を積む。バッハ、スカルラッティなど両楽器による演奏のCDが高い評価を受けている。
(記録者:西谷晋)
 

ベートーヴェンのピアノとヴァイオリンのためのソナタ
公開レッスン&コンサート

 
講師:植田克己(ピアノ)
2017年6月10日(土)15時開演 スタジオ・コンチェルティーノ
 
 今日は植田克己さん(東京芸大名誉教授)の登場である。植田さんにはすでにベート-ヴェンのピアノ・トリオのセミナーに来ていただいている。このベートーヴェンのヴァイオリンソナタシリーズは安永夫妻(安永徹・市野あゆみさん)で始まったが中断していた。今回、植田さんが第6~第8番を取り上げる。第9番と10番はまたいずれということになる――TAMA音楽フォーラムの岡山潔代表のこのようなあいさつで公開レッスンが始まった。植田さんの綿密な指導に、折々ヴァイオリニストの玉井菜採さんの適切な助言が入る形でセミナーは和やかに進行した。二人の講師が時として若い受講者と譜面を見ながら語り合う情景がとても印象に残った。その内容は多岐にわたり、とてもとらえきれないので、ごくかいつまんで以下に記録する。
 まずグループA=北田千尋さん・桐朋学園音大3年(V)と守永由香さん・桐朋音大3年(P)=がヴァイオリンソナタ第8番を演奏した。
 〔第1楽章〕
*ここはアレグロ・アッサイだからもう少し積極的に。同じ4拍子でも8分音符のところと16分音符のところではテンポ感が違う。また、いろいろなアレグロがあることにも留意したい。歌いたいのはわかるが、テンポは変えずに、そして柔らかく。
*28小節からは、二人がそれぞれ主題を代わる代わる弾くが、2小節単位ではなく、4小節のフレーズにしたい。ピアノは伴奏と思わないで、主体的に。
*展開部の掛け合いは面白いので、それを出したい。
*再現部のテンポ感、どう感じていますか。考えを押し付けるつもりはないのだが、新しい要素とテンポ感で再現したい。フォルテとピアノの色合いも意識したい。
*(玉井さんの助言)。ヴァイオリンはもっとピアノの左手と一緒に弾くつもりになるといい。そうするとテンポ感がもっと出ると思う。
〔第2楽章〕
*ここはベートーヴェンのピアノソナタ作品31-3(第18番)のメヌエット・モデラート・エ・グラチオーソ楽章と似た感じで演奏したい。モデラートだし、同じ音型が何度も出るから、ちょっとのんびりしすぎだ。ヴァイオリンとピアノの左手が2重奏になっている。ここでのヴァイオリンはピアノ・トリオでチェロと一緒に弾くイメージを持つといい。
*尊敬する小林道夫先生は「メヌエットでは1拍目と3拍目を大切に。2拍目はなくてもいいほどに」とおしゃっていた。それを念頭にグループAが再び演奏するとにわかにメヌエットらしくなった。
*前打音を拍子の前に出すか、拍の中にいれるか。私は後者がいいと思うが。
*ベートーヴェンのクレッシェンドをどの程度するか、難しいが、ここは上行音型だから、クレッシェンドは適度にとどめてよい。
*ピアノが少し遅れている。自分で口ずさむように弾くといい。
 
第3楽章は時間切れで省略し、グループB=飯守朝子さん・東京芸大4年(V)と片岡建人さん・東京芸大4年(P)=がヴァイオリンソナタ第6番を弾いた。
〔第1楽章〕
*ピアノが強弱をよく表現していた。出だしのPのところはもっと柔らかい方がいい。ヴァイオリンは音が少し硬く響く。フォルテの次の休止符の意味をよく考えて。第2テーマでは、しっかりと弾くところと流すところを分けてよい。ピアノはヴァイオリンに合わせて強くなりすぎないで。頑張ったフォルテでなくていい。
*ヴァイオリンは表現が固い。とんがって聞こえないように。
*81小節のホ長調のところを大切にしてほしい。
*響きに一体感がほしい。2人でどういう響きを作るか、いかに2人で共有できるようにすべきかを話し合ってもらいたい。
*(玉井さんの助言)この第1楽章はベートーヴェンのヴァイオリンソナタの中でも最もピアノとヴァイオリンの掛け合いが顕著な楽章で、
いろいろな読み方ができるので、対比をつけるだけでなく、表現の深さももっと研究してほしい。
 〔第3楽章〕
*とてもよく弾けている。バランスもいい。
*第2変奏の後半はそんなにピアノは頑張らなくてよい。右手は流して左手を大事に。
*短調の変奏ではドラマチックでない変奏、やわらかな表現の中で緊張感を維持したい。
*第3変奏では、ヴァイオリンとピアノはもっと対話してほしい。
 
 休憩の後、植田克己(ピアノ)と玉井菜採(ヴァイオリン)のお二人がソナタ第6番イ長調と第7番ハ短調を演奏した。とりわけ第7番は非常に緊張感あふれる熱演となり、長い拍手が続いた。
(記録:西谷晋)
 
 

ショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタ
公開レッスン&コンサート

 
 
講師:野平一郎(作曲、ピアノ)   
2017年7月29日(土)15時開演 スタジオ・コンチェルティーノ
    
 
 今日は作曲家として、ピアニストとしてはもちろん、指揮者としても注目され始めた野平さんの登場である。はじめに、岡山潔代表から、曲目変更のおわびと事情説明があった。当初、レッスン曲としてショスタコーヴィッチのヴァイオリン・ソナタOP134を予定していたが、これまでにないことに、受講希望者はゼロで、ほかに探したが見つからない。実は自分も弾いたことがない。そこで、同じ晩年の作品ということで、ヴィオラ・ソナタにしようとした。幸いなことにパリ留学中のヴィオラの田中啓太さん(東京芸大卒業後、仏エコール・ノルマル在学)が一時帰国中だとのこと、かれに、パリへ戻るのを延期して今日ここに来てもらった。そしてピアノの受講生は東京芸大大学院作曲科在学中の秋山友貴さんと紹介された。
 野平さんは開口一番残念だったと一言。ヴァイオリンソナタ(1968年)は2曲のヴァイオリン協奏曲に比べあまり知られていないが、ピアノ部も充実したとてもいい曲だ。しかし岡山さんの説明があった通り、きょうは最後の作品であるヴィオラ・ソナタ(彼の死の1か月ほど前の1975年7月完成)にした。この曲は作曲者が自分の生涯を振り返っている趣がある。この曲を今井信子さんと何度か共演したが、最初はアレルギーというか、違和感があった。
 20世紀のロシア音楽を見渡すと、国内で自分の世界を表現した人や、プロコフィエフ、ストラヴィンスキーのような人がいた。ストラヴィンスキーはロシア的題材で作品を創った後、次第に新古典派に傾いた。彼はおそらくロシアに帰るつもりはなかっただろう。逆にプロコフィエフはロシアを出て、日本、アメリカ、フランスを経て、ノスタルジーからだろうか、一番悪い時のソ連に帰る(1936年)。このスターリニズムの犠牲者がいっぱいいる中で、ショスタコーヴィッチは生き延びる。いろいろ屈折があったに違いない彼の音楽表現の裏に何があるか、その本心は何か。そんなことから私はショスタコーヴィッチへの関心を少しずつ高め、違和感もなくなっていった。そう語った後、野平さんは受講生2人に演奏するよう促した。2人は、モデラート、アレグレット、アダージオの3楽章全曲を通して演奏した。
 演奏後、「素晴らしい演奏だった」と称賛したうえで、レッスンが始まった。
野平さんは1970年代末にパリで勉強したが、そのころショスタコーヴィッチは交響曲にもまして、室内楽はほとんど演奏されなかった。多くの人が苦手としていて、話題にも上らなかった。当時の私もアレルギーがあるとさえ思わなかった、といいながら、田中さんに「あなたにとってはどうですか」と問いかけた。「私はこの曲をフランスではなく、芸大の学部時代にならったのです。その時、これは当分弾けない、10年はかかると思った。いまはその9年後です。ショスタコーヴィッチの初期とスターリンの死後の変化に興味があるが、人生の最後にこう思うのかなという感想です」と田中さんは答えた。
 このあと、第1楽章の開放弦によるピチカートの出だしをどうするか、から第1楽章についての極めて綿密で懇切なレッスンが始まった。その一部をごく簡単に記録する。
*第1楽章のテンポ指定はモデラートだから、やっているうちに伸び伸びになりがちだ。最初のテンポをどう定めるかが重要だ。開放弦だから、明るいようで暗い、暗いようで明るい。得体のしれない自分の生涯・・・。感情を排除したいのかそれとも違うのか。この冒頭部は全曲中もっとも難しい。しかし重要である、と強調しながら、何度も演奏してもらう。
*音楽の風景、その流れの中の音の質、それが毎回同じにならないように。盛り上がり、激情があり、冷静に弾くべきところもある。その見通しをつけたい。
*頻出する下降音型は東欧系の人々にとっては悲しみ、嘆きを示しているので、そのように表現しよう。
*ヴィオラは最初、内面の感情を抑えて、そこから徐々に進行するといい。だんだん演奏に流れが出てきたのはいい。曲の状況が変わっていく。その様子を表現するように。ピアノもバスラインが少しずつ動いてゆくことにも注意して。
*どこをとっても金太郎あめ、というのはいかがなものか。全体を見通して、もっと流れと変化をつけたほうがいい。力んでフルの状態が続くと後が大変、あなたもそうしないほうが楽だろう。
*ショスタコーヴィッチはもっと長い大きなヴィジョンを持っていたから、それに留意して進んでほしい。
*(途中ヴィオラのトレモロになるところで)ピアノはそこの少し前から自然にさりげなく弾いてヴィオラを迎えるように。ヴぃおらのトレモロは長いメロディラインを重んじて弾こう。そしてこのとき、岡山潔代表から田中さんに「ここは右肩を固くして痙攣のようなトレモロにしないで、肩を楽にして細かい音をぼかすように弾いたほうがよい。」とのアドヴァイスがあり、それに従うと、田中さんのトレモロがにわかに滑らかな旋律線となった。
 第1楽章のレッスンに夢中なあまり、時間切れとなり、ごく短く後の楽章について、野平さんは説明した。
*第2楽章のアレグレットはあまり走らないほうがいい。彼はポルカみたいなものを書きたかったのか。その本心がどこにあったのか興味深い。
*装飾音の弾き方にも工夫がほしい。この音楽はストレートに受け取れない何かがあるのだ。裏がありそうだ。表示がアレグロでなくアレグレットであることにも注意したい。
*第3楽章には、ベートーヴェンの「月光ソナタ」第1楽章の旋律が引用されている。ショスタコーヴィッチは生涯、ベートーヴェンを敬愛し、研究してきたことを考え合わせたい。
 
 レッスンは以上で終わり、後半のコンサートに移った。曲目は予定通り、ショスタコーヴィッチのチェロ・ソナタ ニ短調 OP40を野平さんのピアノ、中木健二さんのチェロで演奏された。中木さんは東京芸大を経て、パリ国立高等音楽院に留学、最優秀で卒業後、スイス・高等音楽院でも研鑽を積む。現在は紀尾井シンフォニエッタ東京メンバーで、東京芸大音楽学部准教授。
 この1934年作曲のチェロ・ソナタの4つの楽章が情熱と抒情を込めて演奏され、聴衆は3時間近くのあいだ、ショスタコーヴィッチの起伏あるイロニーと抒情の多彩な世界に浸った。
 最後に岡山代表が、いま、外ではにわか雨が降りしきっている、雨のやむのを待ちましょうと、アンコールを促されて、二人はチェロ・ソナタの「晴れやかな」第4楽章をより自在に再演し、会場は大きく盛り上がった。
(記録:西谷晋)