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TAMA音楽フォーラム

若手演奏家育成とクラシック音楽の振興を目指します

TAMA Music Forum

活動履歴2019

セミナーの内容

2019年414日(日)15時開演

 
公開レッスン&コンサート
講師:
植田克己(ピアノ)
東京藝術大学および同大学院修了。デトモルト音楽大学、ベルリン芸術大学でクラウス・シルデ氏に師事。第17回ロン・ティボー国際音楽コンクール第2位。ベルリン芸術大学助手。ソリストとしてドイツ、日本の主要オーケストラと協演。1986年~2005年『植田克己ベートーヴェンシリーズ全27回』を開催するなど企画、演奏で積極的な活躍を行う。藝大ジュニア・アカデミー校長、上野学園特任教授、東京藝術大学名誉教授。
 
共演:
玉井菜採(ヴァイオリン)
桐朋学園大学卒業後、アムステルダムのスヴェーリンク音楽院、さらにミュンヘン音楽大学にてA.チュマチェンコ氏に師事。J.S.バッハ国際コンクールをはじめエリザベート王妃国際コンクール、シベリウス国際コンクール等数々のコンクールに優勝、入賞し、ソリストとして国内外で活躍。。紀尾井ホール室内管弦楽団コンサートマスター。アンサンブルof東京、東京クライスアンサンブルメンバー。東京藝術大学教授。
 
□受講生
上敷領藍子(Vn.)東京藝術大学附属音楽高等学校、同大学を経て、同大学大学院修士課程を修了、マーストリヒト音楽院(オランダ)卒業。現在、昭和音楽大学大学院博士後期課程在学中
吉武 優(Pf.)東京藝術大学を経て、同大学大学院修了
ベルリン国立芸術大学ディプロム課程卒業、国家演奏家資格取得、桐朋学園大学および東京藝術大学ピアノ科非常勤講師、同大学弦楽科伴奏助手
受講曲:L.v.ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第10番 ト長調 Op.96
 
□コンサートプログラム
W.A.モーツァルト:「泉のほとりで」による6つの変奏曲 K.360(374b)
L.v.ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第10番 ト長調 Op.96
 

2019年63日(月)16時開演

 
公開レッスン&コンサート
講師:Elisabeth Weber/エリザベート・ヴェーバー(ヴァイオリン)
ワイマールで学び、その後ベルリン、ロンドンでも研鑽を積む。J.シゲティ・コンクール、L.シュポア・コンクール、M.ロスタール・コンクールなど、数々の国際コンクールで優勝。ヨーロッパ各地の室内オーケストラのソロ、コンサートマスターで活躍。アイスラー弦楽四重奏団(2005年創設)、オルフェリアン弦楽四重奏団(ピリオド楽器のアンサンブル)メンバー。
 
共演:薮田京子(ピアノ、通訳兼)
東京藝術大学大学院卒業後、ドイツのカールスルーエ音楽大学大学院演奏家課程修了。東京藝術大学弦楽科伴奏助手を務め、2008年まで「アフィニス夏の音楽祭」のピアニストを務める。日本、ドイツ各地でリサイタルを開催。東邦音楽大学ピアノ科非常勤講師、日独協会、東京家政大学、外務省研修所ドイツ語講師。
 
□受講生
1)  向山亜木子(Vn.)東京藝術大学3
受講曲:W.A.モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調 K.216
ピアノ伴奏:原 沙綾
 
2)  岩崎弓乃(Vn.)東京藝術大学4
受講曲:W.A.モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調 「トルコ風」 K.219
ピアノ伴奏:千葉遥一郎
 
□コンサートプログラム
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ ト短調 BWV1001
W.A.モーツァルト:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ト長調 K.301(293a)
クライスラー:レシタティーヴォとスケルツォ・キャプリス
 

2019年630日(日)15時開演

 
コンサート
演奏:アーニマ四重奏団
山﨑貴子(ヴァイオリン)
松原勝也(ヴァイオリン)
吉田 篤(ヴィオラ)
くぼたりょう(チェロ)
2006年に結成。2008年および2010年、松尾学術振興財団より音楽助成を受ける。2009年「リゾナーレ室内楽セミナー」に参加、緑の風音楽賞受賞。「期待の弦楽四重奏団」としてリゾナーレ音楽祭に招待される。東京藝術大学ハイドンプロジェクトに参加。2015年バルトーク、2016年メンデルスゾーン、2017年シューマン、ブラームスの各弦楽四重奏曲全曲演奏会を開催するなど、積極的な活動を各地で展開。2018年からはベートーヴェンの全曲演奏会を開催中。
 
□コンサートプログラム
ハイドン:弦楽四重奏曲第42番 ニ長調 Op.33-6 Hob.Ⅲ-42
W.A.モーツァルト:弦楽四重奏曲第15番 ニ短調 K.421
L.v.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第5番 イ長調 Op.18-5
 
 

2019年728日(日)15時開演

 
コンサート
演奏:日下紗矢子(ヴァイオリン)
東京藝術大学附属音楽高校を経て、2001年同大学首席卒業。米・南メソディスト大学に留学。同大学院アーティストコース卒業。その後フライブルク音楽大学でも研鑽を積む。イフラ・ニーマン国際ヴァイオリンコンクール、日本音楽コンクール、R.リピッツァー国際コンクールで優勝。パガニーニ国際コンクール第2位。出光音楽賞等多数受賞。2009年べルリン・コンツェルトハウス管弦楽団第1コンサートマスター就任、2013年読売日本交響楽団コンサートマスター就任、日独両オーケストラのコンサートマスターを兼任。
 
日下知奈(ピアノ)
東京藝術大学附属音楽高校、同大学を経て同大学大学院修了。第44回園田高広賞国際ピアノコンクール第3位。2002年ケルン音楽大学に留学しP.ギリロフ氏に師事、ピアノ、室内楽共に首席で卒業。第3回東京音楽コンクール第3位。神戸市室内合奏団と協演。国内各地でソリスト、室内楽奏者として幅広く活躍。2015年より「ベートーヴェンぷらす」と題した室内楽シリーズを開催、好評を得た。20122015年、東京藝術大学室内楽科非常勤講師。現在同大学弦楽科伴奏助手、国立音楽大学附属高校講師。
 
□コンサートプログラム
ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番 ト長調 Op.78
シューマン:森の情景 Op.82
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004
シューマン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番 イ短調 Op.105
 
 

2019年922日(日)15時開演

 
レクチャー&コンサート
講師:
Johannes Meissl/ヨハネス・マイスル(ヴァイオリン)
オーストリア生まれ。ウィーン音楽演劇大学でW.シュナイダーハンとG.ヘッツェルに師事。1982年アルティス・クァルテットを結成、オーストリアを代表するクァルテットとして多彩な活動を行う。ウィーン国立音楽演劇大学室内楽科、J.ハイドン室内楽研究所主任教授。ヨーロッパ室内楽アカデミー(ECMA)芸術監督として、数々の優れた若手クァルテットを世に輩出している。
 
Avedis Kuyumjian/アヴェディス・クユムジャン(ピアノ)
レバノンのベイルート生まれ。ウィーン音楽演劇大学でピアノを専攻、第6回ベートーヴェン国際ピアノコンクールで優勝後、欧州各地、日本で主要オーケストラとの協演やリサイタルを行い、室内楽奏者としての実力も発揮。1997年からウィーン音楽演劇大学教授。J.マイスル教授と共にJ.ハイドン室内楽研究所を創設、所長として活動。2016年ベルギーのエリザベート王妃音楽大学のピアノ科教授にも任命される。
 
通訳:薮田京子
 
□コンサートプログラム
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナティネ第2番 イ短調 Op.137-2 D385
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのための二重奏曲 イ長調 Op.162 D574
 
 

2019年1026日(土)15時開演

 
レクチャー&コンサート
演奏:高野耀子(ピアノ)
パリに生まれ、4歳からピアノを始める。15歳で東京音楽学校に入学、3年後パリに戻り、19歳でコンセルヴァトワールをプルミエ・プリで卒業。その後ドイツのデトモルト音楽院でH.リヒター・ハーザーに師事。1954年ヴィオッティ国際コンクールで優勝。以後ヨーロッパ各地の主要オーケストラと協演を重ねるなど活発な演奏活動を行う。1965年から4年間A.B.ミケランジェリの薫陶を受ける。1979年帰国、東京を中心に各地でオーケストラとの協演をし、リサイタルを開催、現在にいたる。
 
□コンサートプログラム
G.F.ヘンデル:エア・ヴァリエ
W.A.モーツァルト:幻想曲 ハ短調 K.475
W.A.モーツァルト:ピアノ・ソナタ第14番 ハ短調 K.457
シューマン:子供の情景 Op.15
シューマン:蝶々 Op.2
 
 
 

2019年1123日(土)15時開演

 
公開レッスン&コンサート
講師:
和波たかよし(ヴァイオリン)
1962年、日本音楽コンクール第1位、特賞。1970年、J.シゲッティ氏の推薦によりブリュッセルのイザイ協会からイザイメダルを授与される。1971年、イザイ無伴奏ソナタ全曲録音で文化庁芸術祭優秀賞受賞。国内外のオーケストラとの協演やリサイタル、室内楽の分野でも土屋美寧子とのデユオ等で活躍。文化庁芸術祭優秀賞、サントリー音楽賞、紫綬褒章、旭日小綬章を受賞。桐朋学園大学、東京藝術大学、愛知県立芸術大学で非常勤講師。1985年から北杜市で毎夏「八ヶ岳サマーコース&コンサート」を開催。
 
□受講生
1)  眞岩紘子(Vn.)京都市立芸術大学卒業
受講曲:E.A.イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番 ホ短調 Op.27-4
2)  辻 純佳(Vn.)東京藝術大学3
受講曲:E.A.イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 「バラード」 Op.27-3
 
□コンサートプログラム
E.A.イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 Op.27-1
E.A.イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 「バラード」 Op.27-3
 
 
 
 

2019年1215日(日)15時開演

 
コンサート
演奏:佐久間由美子(フルート)
東京藝術大学附属音楽高校を経てパリ国立高等音楽院をプルミエ・プリで卒業。帰国後はオーケストラとの協演を始めソリストとして、また室内楽奏者として活躍。1983年ランパル国際コンクール第1位、第1回神戸国際フルートコンクール第2位。1992年モービル音楽賞奨励賞受賞。オイロス・アンサンブルメンバー。国立音楽大学及び大学院客員教授。
 
吉野直子(ハープ)
1985年第9回イスラエル国際ハープコンクールに最年少17才で優勝。その後は世界各地でソロ・リサイタルを行うとともに、ヨーロッパ、アメリカ、日本の主要オーケストラ、指揮者と協演を重ねている。CD録音多数。1988年芸術祭賞、1991年文化庁芸術選奨文部大臣新人賞受賞。国際基督教大学卒業。
 
佐々木亮(ヴィオラ)
東京藝術大学附属高校を経て同大学卒業。ジュリアード音楽院でさらに研鑽を積む。現音室内楽コンクール第1位。東京室内楽コンクール第2位。NHK交響楽団首席ヴィオラ奏者。20082014年、岡山潔弦楽四重奏団メンバー。アメリカ・日本で著名演奏家たちと室内楽の分野で活躍。桐朋学園大学、洗足学園大学、東京藝術大学講師。
 
□コンサートプログラム
J.S.バッハ: 組曲 ハ短調 BWV997
ドヴィエンヌ:フルートとヴィオラのための協奏的二重奏曲 ハ短調
ゲンツマー: フルート、ヴィオラ、ハープのための三重奏曲
ラヴェル(編曲 C.サルツェード): フルート、ヴィオラとハープのためのソナチネ
ドビュッシー: フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ
 

2020年118日(土)15時開演

 
コンサート
演奏:
葵トリオ
秋元孝介(ピアノ)
小川響子(ヴァイオリン)
伊東 裕(チェロ)
東京藝術大学およびサントリーホール室内楽アカデミーで3人が出会い、共に研鑽を積み、2016年ピアノトリオを結成。3人の頭文字を合わせて葵トリオと命名。2018年第67回ミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ三重奏部門で優勝、現在は拠点をドイツに置き、トリオ・ヴァンダラーのV.コック、フォーレ四重奏団のD.モメルツに師事。ヨーロッパ、日本を中心に活発なコンサート活動を行っている。第28回青山音楽賞バロックザール賞、第29回日本製鉄フレッシュアーテイスト賞を受賞。
 
□コンサートプログラム
シューマン: ピアノ三重奏曲第3番 ト短調 Op.110
シューマン:ピアノ三重奏曲 ト短調 Op.17
ブラームス: ピアノ三重奏曲第2番 ハ長調 Op.87
 
 
 

2020年216日(日)15時開演

 
公開レッスン &コンサート
講師:
山崎伸子(チェロ)
桐朋女子高等学校音楽科、同大学音楽学部卒業。更にジュネーヴでP.フルニエに師事。ヨーロッパ・日本の主要オーケストラと協演。ソリストとして、また室内楽奏者としても活躍。第1回民音室内楽コンクール第1位。第44回日本音楽コンクール第1位。2007年より10年にわたるチェロソナタシリーズを開催。同シリーズライブCDで第49回レコード・アカデミー賞受賞。「東燃ゼネラル音楽賞」奨励賞受賞。桐朋学園大学特任教授。東京藝術大学名誉教授。
 
星野宏美(音楽学)
東京藝術大学楽理科卒業、同大学院修了。博士(音楽学)。著書に『メンデルスゾーンのスコットランド交響曲』(音楽之友社)、玉川大学所蔵メンデルスゾーン自筆ピアノ譜『最初のワルプルギスの夜』(雄松堂)、楽譜校訂に“Mendelssohn Bartholdy:Sonaten für Violine und Klavier (Bärenreiter、桐山建志と共著)、楽譜解説に『メンデルスゾーン交響曲第3番』、『同第4番』、『同無言歌集』(音楽之友社)など。立教大学教授。
 
演奏:
大伏啓太(ピアノ)
東京藝術大学附属音楽高校、同大学を経て同大学院修士課程修了。国内外のコンクールにて優勝、入賞を重ね、2014年には日本音楽コンクール審査員特別賞を授与されるなど、共演者としての信頼も厚い。東京藝術大学大学院室内楽科非常勤講師を務め、現在は同大学ピアノ科、および桐朋学園大学ピアノ科非常勤講師。
 
□受講生
水野優也(Vc.)桐朋学園大学音楽科ソリスト・ディプロマ・コース修了。現在、ハンガリー国立リスト・フェレンツ音楽大学在学生
五十嵐 薫子(Pf.)桐朋学園大学大学院修士課程修了。現在、修士修了後履修生
【受講曲】F.メンデルスゾーン:チェロ・ソナタ第2番 ニ長調 op.58
 
□コンサートプログラム
メンデルスゾーン:チェロ・ソナタ第2番 ニ長調 Op.58
メンデルスゾーン: 無言歌 Op.109
 
 

セミナーレポート

公開レッスン&コンサート
講師:堀米ゆず子(ヴァイオリン)
2019年1月19日(土)15時開演 スタジオ・コンチェルティーノ

 
 2019年のTAMA音楽フォーラムは堀米ゆず子さんによるレッスン・コンサートで幕を開けた。まず岡山芳子理事長が新年のあいさつをした後、堀米さんは1年前のフランクのヴァイオリン・ソナタの素晴らしい講座につづくもので、今日は3組の受講グループ6人に来ていただいた、と語った。レッスン曲は近年とみに評価の高まるR.シュトラウスのピアノとヴァイオリンのためのソナタ変ホ長調作品18。
堀米さんは1980年、ベルギーのエリザベート王妃国際音楽コンクールで日本人初の優勝を飾り一躍名を上げた世界的名ヴァイオリニスト。現在、欧米と日本で演奏活動する傍ら、イギリス、ベルギーで教鞭をとっている。
この日のレッスンは、受講aグループの城戸かれんさん(V=東京藝大大学院修士課程2年)と横山瑠佳さん(P=東京藝大大学院修士1年)が第1楽章を、bグループの糸原彩香さん(V=愛知県立芸大卒)と佐伯麻友さん(P=桐朋学園大研究科修了)が第2楽章を、cグループの斎藤碧さん(V=東京藝大3年)と尾城杏奈さん(P=東京藝大3年)が第3楽章を演奏し、それぞれ指導を受けた。堀米さんは自分のヴァイオリンを手にとりながら、実に綿密かつ懇切な指導ぶりで、その全容はとてもここに再現出来ず、わずかに気が付いた点だけを摘記する。
 
(第1楽章)
*演奏後、ヴァイオリンの城戸さんに「何が難しかったですか」と問いかけ、前へ前へと音色の変化豊かに進むところという話となり、堀米さんはベートーヴェンとの違いを例えに出した。師の江藤俊哉先生はベートーヴェンの密度はとても高いが、シュトラウスの場合はベートーヴェンに比べて空気が大切なので、音楽に空気を入れたほうがいいと言われていた。冒頭は手さぐりするように入っていくこと、アクセントなどの指示がやたらと出てくるので、アクセントをつけ過ぎないこと.指示に従いすぎるとテンポが遅くなる。
*情熱を籠めたいときは、体を右や左に動かすなど試みて強く弾く。
*この楽章にはシュトラウスならではの、曲をとんでもないところに連れて行く転調の妙がある。「エレクトラ」「バラの騎士」など彼のオペラはきれいなハーモニーに満ちている。そのような表現がほしい。
*曲想のまだ途上にあるフォルテを強く弾きすぎると後が続かない。
*コーダでは(シュトラウス的に)いやらしくならないで格好よく弾きたい。
 
(第2楽章)
*この楽章の演奏は大変、とても難しい。冒頭のヴァイオリンはダウンでなくアップボウで弾くといい。いろいろ試すのは大切だ。
*たとえばアルゲリッチのピアノ演奏は、シューマンのソナタなど聞いても非常に力強い。しかしそれだけではない。押すだけでなく引くことをわたしは彼女から学んだ。
*スラーの表記にはできる限り従った方がいい。しかし変えたいときはなるべくさりげなく自然に。
*一つのエピソードが終わり、次へ移るとき、変化をつけたい。動きを見せてほしい。もっと空気の入ったふくらみを・・・。
*音楽は会話なのだ。フレーズ全部にスラーがかかっているときは、どこで切るかを決めたい。会話だから役割を分担したい。
*いろいろの曲折のあとのへ短調なのだから、そこはしっかりと表現したい。
*終わりのところは高く飛翔するように(と堀米さんはジェスチャーで示した)。
 
(第3楽章)
*とてもよく弾けた、と語りつついくつかの注意があった。リズムをよく考えたい。もっとコントラストがほしいところ、メリハリをつけたいところがある。
*出だしのピアノは音のぶつかり合いをもっと出していい。葬送行進曲的な雰囲気だから、音のメリハリでそれがわかるように弾きたい。
*その後のト長調のメロディー、そこは解放された感じで、なめらかに、しゃくり上げないで。
*(終結部で)フォルテを強くしすぎないで。4つのテーマが全部聞こえるように演奏したい。似たフレーズの繰り返しでは単調にならず、変化をつけて。このあたり堀米さんは手拍子でリズムを取りながらの指導となった。
 
 15分の休憩後、コンサートに移り、ピアニストの津田裕也さん(東京藝大卒業後、ベルリン芸大で研鑽を積み、いま国際的評価を高めている)が堀米さんと共演して、先ほどのR.シュトラウスのヴァイオリン・ソナタ全曲を演奏した。そこには、まだ20代前半の若きR.シュトラウスの情熱(第1楽章)、綿々たる抒情(第2楽章)、「ドン・ファン」や「バラの騎士」を思わせる起伏にとんだ表情(第3楽章)が見事に再現された。
 満席の聴衆の長く鳴りやまない拍手にこたえて、マリア・テレジア・フォン・パラディスの「シシリエンヌ」が初春の夕べを静かに彩った。(記録:西谷晋)
 

コンサート
演奏: クァルテット ベルリン-トウキョウ
2019年2月18日(月)17時開演 スタジオ・コンチェルティーノ

 
 TAMA音楽フォーラムとしては異例の月曜日午後5時からの演奏会となった。冒頭、岡山芳子理事長は、もともと、この演奏会は2月9日午後3時からの予定だったが、その日は大雪が予想されたため、急遽中止となり、4人のメンバーは多忙な日程の中、この日だけ開いているとのことで、実現した、聴衆の皆様にもご迷惑をかけた­­―-とあいさつした。クァルッテット ベルリン‐トウキョウの来演はこの日が2回目で、2016年1月30日のニューイヤーコンサート以来となる。当時お元気だった岡山潔前理事長が「いま最も期待している四重奏団」と紹介し、コンサートの後、演奏を絶賛しつつ、またぜひ来てもらいたいと語っていた。それがこの日実現したわけである。
 演奏前に第1ヴァイオリンの守屋剛志さんが、「プログラムにはありませんが」と断りながら、J.S.バッハの「マタイ受難曲」からのコラール「いつの日か私が去り逝かねばならぬとき」を弦楽四重奏で演奏した。言葉にはしなかったが、それは、芸大学生時代から薫陶を受けた師、昨年10月1日に他界した岡山潔へのオマージュであり追悼でもあった。
 これに続いてコンサートは、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第10番変ホ長調作品74「ハープ」と、休憩をはさんでシューベルトの弦楽四重奏曲第15番ト長調D887の2曲が演奏された。いずれも若々しい情熱と、緩徐楽章の心を込めた深い抒情など、曲想を見事に表現し、聴衆から強い称賛の拍手を浴びた。その演奏には団員4人の敬愛する岡山潔前理事長への想いがこもっていた。長い拍手にこたえて、アンコールとして、前回の来演でも取り上げたハンガリーの長老作曲家、ジョルジュ・クルタークの「弦楽四重奏のための12のミクロリュード」から第1曲と第5曲を演奏した。バッハを敬愛するクルタークの悲しみと安らぎが交差するこのアンコールにさらに大きな拍手が送られた。
 最後に岡山芳子理事長が演奏をたたえつつ、「岡山潔が10年前にウィーン音楽・芸術大学の客員教授として、1年近く滞在した時、クルタークの音楽に接して感動し、ぜひ日本に呼びたいと言い続けていたのですが」と語った。
 現在のメンバーは守屋剛志(第1ヴァイオリン)、ディミトリ・パヴロフ(第2ヴァイオリン)、グレゴール・フラーバー(ヴィオラ)、松本瑠衣子(チェロ)の4人。岡山潔の強い推挽により札幌・六花亭ふきのとうホールのレジデンス・クァルテットに選ばれ、今年から契約はさらに3年延長された。この間、ヴィオラの交代はあったが、同四重奏団は国際的評価をさらに高めながら、世界第一級の弦楽四重奏団への道を着実に歩んでいるといえよう。
(記録:西谷晋)
 

レクチャー&コンサート
講 師  伊藤 恵(ピアノ)
共 演  戸原 直、高橋 奈緒(ヴァイオリン)
     樹神 有紀(ヴィオラ)
     佐古 健一(チェロ)
2019年3月17日(日)15時 スタジオ・コンチェルティーノ

 
 第96TAMA音楽フォーラム室内楽セミナーの講師を務めたのはピアニストの伊藤恵・東京藝術大学教授。桐朋学園大学特任教授も兼ねている。岡山(服部)芳子・理事長がまず、ソロだけでなく室内楽や協奏曲でも活躍している伊藤先生を紹介、次いで共演の4人の方々は日ごろグループで活動しているのではなく、今日のコンサートのために集まったなどと説明した。
 
伊藤先生は「今日はサクラの花がもうすぐ開花する日曜日です。スマホに替えて二か月、それまではガラケーで・・・」などと近況を交えて挨拶。「このセミナーには仰々しいタイトルがついていますが、以前に(モーツァルトの生まれ故郷)ザルツブルクのモーツァルテウムで勉強したので、その経験からお話します。高卒(桐朋学園高校)でザルツブルクへ行き、1年くらいで慣れて。学生券はとても安く、貴重な演奏会を聴く機会に恵まれました」と振り返った。
 
1954年のザルツブルク音楽祭で巨匠フルトヴェングラーが指揮したモーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 175691年)のオペラ「ドン・ジョヴァンニ(正式には『罰せられた放蕩者またはドン・ジョヴァンニ』)K527」の伝説的な名演がカラー映画(現在はDVD)になって残っているが、1819歳当時の先生はこの映画にも触発されて、「(モーツァルトという)偉い人がつくった音楽だなぁ、ものすごく偉い人、神様だと思っていました」。このなかで歌われるイタリア語の美しいアリア、「赦せない」とか、純愛、裏切りなどの激烈な歌詞は日本語の語感とはずいぶん違うと思ったという(台本はロレンツォ・ダ・ポンテ)。今年にはいって金沢、東京、熊本で行われた日本語による「ドン・ジョヴァンニ」の公演に加わったチェロの佐古さんも「日本語のテクストなので語感としては(原曲本来のイタリア語とは)全然違って・・・」と自身の印象を語った。モーツアルトは台本の尖った言葉、美しくも切ない表現をそれらにふさわしい音楽につくり上げ、一見すると不道徳な喜劇だが、悲劇の要素も備わった複雑な曲に仕上げたわけだ(日本語で歌うと、どこか違和感があるのだろう)。
 
 先生は「モーツァルトは我々が想像もつかない洞察力を音楽で表してしまいます。14歳の時につくったオペラ『ポントの王ミトリダーテ』(K87)は美しいだけでなく、嘆き、苦しみ、深い悲しみが切々と迫ってくる。その天才性はあがめるしかない。モーツァルトの音楽の究極のジャンルはオペラであり、いろいろなキャラクターが出てきて激しくてドラマチック、美しい女声のアリアが出てきて聴いている我々自身が触発されてしまう」と続けた。
 
 この日のセミナー&コンサートで取り上げたピアノ四重奏曲第1K478は交響曲第25K183、同第40K550や弦楽五重奏曲第4K516と同じト短調。悲しみとか死を予感させる調性ともいわれる。先生が先に触れた「ドン・ジョヴァンニ」の序曲は、主人公に決闘で殺された騎士長が石像となって現れ、押し問答の末にジョヴァンニが地獄に落ちる第2幕後半、オペラのヤマ場の音楽で始まる。この部分は恨みや怒り、修羅場を表すニ短調で、これもピアノ四重奏曲ト短調の出だしも、ともに重厚で悲劇的な感じを与える。
 
 このト短調四重奏曲を楽譜として出版する際にモーツァルトは出版社側から、難しくて誰も弾けないと言われたという。とりわけ、そのころのチェロ奏者の力量は楽譜の水準に達していなかったのだとか。当時のウィーンでは楽譜をたくさん売るために、曲そのものをもっとやさしくしなければならなかったわけである。先生は「(難しい曲にした)モーツァルトにとって、地獄みたいなものの存在が大切だったのでは。天国的なもの、地獄的なものの共存が私たちの胸を打つのです」と付け加えた。
 
 一方のピアノ協奏曲第12番イ長調K414は予約演奏会のために作曲した第11番から13番の3曲のなかのひとつで、なぜモーツアルト自身がオーケストラ部分を弦楽四重奏に編曲したのか。その訳は小人数で弾けるから、ということらしい。ピアノ四重奏曲(ピアノにヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ各1)に対し、こちらは第2ヴァイオリンが付け加わるだけの編成なので、室内楽として演奏する機会がぐっと増える(たぶん楽譜も多く売れる?)。
 
 ピアノ協奏曲第12番の第1楽章は実に軽やか心地よく、第2楽章はピアノも四重奏ものびのびとうたうなど、いかにも明るいモーツアルトらしい。先生は「指揮者がいないのは、それはそれでよいのですね。室内楽のように自発的に弾く醍醐味があります。(予約演奏会では)モーツァルトはたぶん、(オーケストラの指揮とピアノを兼ねた)弾き振りぶりだったのでしょう」と、演奏家心理、本音に言及した。
 
今日のために組成されたとはとても思えないすばらしい演奏がスタジオ・コンチェルティーノに響きわたり、モーツァルトという作曲家の幅の広さと深み、オーケストラとはまた違う室内楽のよさを味わうことができた。
 
最後に岡山(服部)理事長が「生き生きとファンタジーが湧いてきて、どう言ったらいいのか、弾いている人と聴いている人の垣根がないと言うか、不思議な幸福感に包まれました」と締めくくった。(走尾 正敬)
 
 

公開レッスン&コンサート
 
講師:エリザベート・ヴェーバー(ヴァイオリン)
通訳/ピアノ 薮田京子
    
2019年6月3日(月)16時 スタジオ・コンチェルティーノ

 
 今日はヴァイオリニストのエリザベート・ヴェーバーさんのフォーラム初登場である。ヴェーバーさんは旧東ドイツのチューリンゲン生まれ。ワイマールで学び、その後ベルリン、ロンドンで研鑽を積み、ヨーゼフ・シゲッティ・コンクール、シュポア・コンクール、マックス・ロスタル・コンクールなど相次ぎ優勝し、国際的なヴァイオリニストの地位を築いてきた。ローザンヌ室内管、チューリヒ室内管、マーラー室内管のコンサートマスターを務め、室内楽奏者としてもアイスラーSQ,オルフェリアンSQのメンバーとして活躍し、ハーディングなど著名指揮者との共演も多い。2006年からドイツ・リューベック音楽大学の教授として後進の指導にもあたっている。今回、神戸室内合奏団に招かれて訪日し、同室内管とJ.S.バッハのヴァイオリン協奏曲第1番の名演を披露した後、TAMAフォーラムに駆け付けた。
 公開レッスンの受講者は東京藝大3年の向山亜木子さん(V)と原沙綾さん(P伴奏)と東京藝大4年の岩崎弓乃さん(V)と千葉遙一郎さん(P伴奏)がそれぞれモーツァルトのヴァイオリン協奏曲の第3番の第1楽章と同第4番の第1楽章を通して演奏した後、ヴェーバーさんが自分の愛器を手にしながら主にヴァイオリニスト受講生に対して懇切なレッスンを行った。その指導は熱烈かつ綿密で、どちらも予定の時間をオーバーするほどとなった。このレスンの概要を以下の通り記録しておく。
 〈向山・原コンビ〉
*きっちりひかれてはいるが、これまで、モーツアルトの作品はほかにどんなものを弾いてきたか。彼の映画や肖像画を見たことがあるか。どんな人物だったのか。楽譜には細かい指示が書いていないので、どこから音楽のイメージをつくるのかが大切だ。演奏するときは(楽譜をなぞるだけでなく)彼のいろいろな面を表現してほしい。
*(ダウンボウをやらせて)柔らかく自然に弓を引き下ろすこと。手首に力を入れないで。肩を柔らかく動かして.体が固いのはよくない。音をホールに響かせよう。音楽をどんどん進行させよう。余計な力を入れないで。
*あなたは声を出して歌うことがありますか。歌うことはとても大切ですよ。
 〈岩崎・千葉コンビ〉
*とてもいいです。ご自分のメッセージが聞こえてきました。ただ、もう少しいろいろな意味で演奏に自由さがあればいいのですが。アーティキュレーションをもっといろいろ使い分ければいい。もっと自在に演奏して自分でも楽しめるような演奏を心掛けてほしい。
*モーツアルトらしさを表現することが大切です。
*(ヴァイオリンの出だしをビブラ―トなしで演奏させて)ビブラートなしのほうが音程の正確さを求められる。ビブラ―トに頼りすぎないように。
*もっと自由に。こうでなければ、という思いにとらわれないで弾き始めたい。小さなカデンツァはゆっくり弾き始めること。弓を押し付けるのではなく、オープンにして音を響かせよう。下降音型で音がぐったり落ちないように、しっかり保持すること。構え過ぎないで。もっと喜びの表情で。
*自然でいながら、自在な弓使いで、しかし集中すべきところは集中して・・・。
 
 以上でレッスンは時間切れとなり、休憩後、コンサートに移った。
曲目はまず、バッハの無伴奏ソナタ第1番ト短調BWV1001。つづいて、ヴィットマンの無伴奏練習曲第1番が予定されていたが、モーツアルトのレッスンの後でもあり、曲目を変更し、モーツァルトのピアノとヴァイオリンのためのソナタ ト長調KV301の第1楽章が、レッスンの通訳を巧みに果たした薮田京子さんのピアノで共演された。最後にクライスラーのヴァイオリンソロ曲「レシタティーボとスケルツオ・キャプリス」作品6で締めくくった。演奏は、レッスン時に想像した通り、柔らかく豊かな音色で、3曲それぞれの曲想を悠然と描き分け、いつまでも拍手が鳴りやまなかった。(記録:西谷晋) 
 

レクチャー&コンサート
 
講師:高野耀子(ピアノ)
 
    
2019年10月26日(土)15時 スタジオ・コンチェルティーノ

 
 
 
 国際舞台で活躍する日本人の音楽家がますます増えている現状は頼もしい限りで、若手・中堅が国際コンクールで優秀な成績をあげる例も目立っている。ごく最近の例では、97日のヨハネス・ブラームス国際コンクール(オーストリア)のピアノ部門で三原三紗子さん(30)が1位、尾島紫穂さん(36)が2位、石井楓子さん(28)が3位と上位を独占した。そして、同21日のブザンソン国際若手指揮者コンクール(フランス)で沖澤のどかさん(32)が優勝し、(第102TAMA音楽フォーラム室内楽セミナーの後だったが)118日のジュネーブ国際音楽コンクール(スイス)の作曲部門で高木日向子さん(30)が優勝。さらに同16日のロン・ティボー・クレスパン国際音楽コンクール(フランス)ではピアノ部門で三浦謙司さん(26)が1位、務川慧悟さん(26)が2位となる快挙を成し遂げた。第102回セミナーの講師、高野耀子先生は今から65年前、1954年のヴィオッティ国際音楽コンクール(イタリア)のピアノ部門で審査員の満場一致で優勝した。日本人として初めての国際音楽コンクールでの優勝だった。つまり、高野先生は日本人音楽家の今日の隆盛を築き上げた大先達なのだ。
 
 この日のセミナーではまず、岡山芳子理事長が「高野先生に講師をお願いするのは3年ぶりです」と紹介。先生は「今日、お聴かせする曲のうち、3曲はピアノ人生の出発点とも言える思い出が詰まった曲で、大事にしています。ヘンデルのエア・ヴァリエは小学校2年の時、今から80年前に弾かされて、第1変奏の左手のところができなくて自殺をしようかと思ったほどでした。やっぱり難しい曲です。シューマンの『パピヨン』は初めてオクターブに取り組んだ曲で、藝大の入試の自由曲で弾きました。モーツァルトはミュンヘン音楽大学の課題曲でした」と、選曲の訳を説明した。幼いころから厳しい自己規律でピアノと向き合ってきたことが伺い知れる。
 
 高野先生はパリで生まれ育ったので、自然とフランス語が出てくるが、ヘンデル(Georg Friedrich Händel 16851759)のエア・ヴァリエは日本式にはハープシコード組曲第5番ホ長調HWV430の第4楽章「エアと(5つの)変奏」で、「調子の良い(あるいは愉快な)鍛冶屋」という通称がある。ヘンデルは1712年にドイツからイギリスに移って27年に帰化した経緯があり、この曲は20年に出版されたハープシコード組曲第18曲中の第5番。本当かどうか分からないのだが、この通称は元鍛冶屋の楽譜商がハンマーの音を連想して付けたという説がある。インターネットのペトルッチ楽譜ライブラリー(IMSLP)で、ピアニスト・指揮者のハンス・フォン・ビューロー(Hans von Bülow 1830 94)がハープシコード(チェンバロ)用の原曲をピアノ用に改定した楽譜を見ることができる。原曲にはないフォルテ、ピアノといった強弱記号、カンタービレなどの発想記号、さらにクレッシェンド、ウン・ポコ・ピウ・モッソなどと様々な指示が書き込まれている(これら2つの楽器にはタッチの軽重、指使いなどに違いがあるそうだ)。
 
 音楽ファンでなくても、どこかで聞いたことがあるメロディーだと思うに違いない。音の強弱が出ないチェンバロでは、楽譜にない装飾音を加えて流麗で華やかなバロックの世界を繰り広げる。そのピアノ版は少なくとも百何十年か後だけに、楽器の進化を反映して音量、強弱、ニュアンスといった表現の幅が格段に広がったと言えるだろう。先生は「まず、自殺未遂から・・・」と言って弾き始めた。次第に響きが力強く音量が豊かなって行く。たしかにチェンバロのように聞こえるところもある。ビューローの楽譜を見ると、終わりに近づくほど黒くなっている。ピアノの練習に向いている曲かも知れないが、先生のおっしゃる通り難しい曲のようだ。
 
 2曲目のモーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 17561791)の幻想曲KV475 1785年の作曲、3曲目のピアノ・ソナタKV457は第14番と呼ばれ、84年の作曲で、両者は85年に作品11として出版された。調性は同じハ短調。モーツァルトのピアノ・ソナタのうち短調の曲はこれと第89)番イ短調の2曲だけ。先生は2つの曲をほとんど間を置かず、音量豊かに弾いた。幻想曲はソナタのいわばプロローグ的な位置づけで、概して暗く、憂鬱というか、重苦しい印象だ。先生のメモではソナタの第1楽章を自筆譜通りのアレグロ(出版譜はモルト・アレグロ)、第3楽章も自筆譜と同じモルト・アレグロ(出版譜はアレグロ・アッサイ)となっている。第1楽章は幻想曲の続きのように始まり、次第にモーツァルト一流の快い響きが広がって行く。第2楽章は澄み切ってゆったりと流れ、第3楽章は緩急のメリハリが素晴らしい。全体として繊細と大胆、劇的な激しさが同居している感じだ。ヘンデルの「鍛冶屋」とは60年余りの違いしかないとはとても思えない。
 
休憩をはさんで、まずシューマン(Robert Schumann 181056)の「子供の情景Op.15」の13曲。天才ピアニスト、クララ・ヴィーク(Clara Wieck -Schumann 181996)と結婚する2年ほど前の1838年の作曲で、「見知らぬ国や人々のこと」「まか不思議な話」「おにごっこ」など、13曲にはすべて標題が付いている。シューマンは子供好きだったようで、幼い子供の心情を推し量ったり、動きを観察したりして作品に仕上げたのだろう(夫妻は8人の子供をもうけた)。7曲目の「トロイメライ」はあまりにも有名だ。高野先生は昔に帰って無心とか純真、無邪気といった子供の世界を心温まる響きで表現した。
 
続いて、やはりシューマンの「蝶々Op.2」。クララ編纂の楽譜には183031年の作曲とある。原題はフランス語のパピヨン(Papillons)。ドイツの作家ジャン・パウル(Jean Paul 17631825)の小説「生意気盛り(Flegeljahre)」、とりわけ、そのなかの仮面舞踏会の描写に触発されて作曲したという。小説は解放とか、自由、喜び、内気、繊細さといった作家自身の心の有り様を自己の相対化を通じ、含蓄のある多様な比喩で描いた作品とされ、若いシューマンはその手法、内容にひかれたようだ。6小節の序奏と12曲で構成され、各曲には「仮面舞踏会」を始め、小説に登場する兄弟の名をとった「ヴァルト」や「ヴルト」などの標題が付いている。使った調性が10もあり、曲想がめまぐるしく変わる。これは、さなぎから変態し、美しい羽で自由に飛び回り、永遠の生命の象徴でもある蝶の音楽による比喩とも考えられる一方、仮面舞踏会の雰囲気と作家自身の夢想をシューマンが推し量り、音で表そうとしたのではないかといった論考も出ている。現在では「ロマン主義の革新的な楽曲」という高い評価もあるが、発表当時は奇抜、奔放、様式からの逸脱などと批判され、総じて不評だったという。なぜ、曲名をフランス語にしたのかは分かっていない。作家(本名Johann Paul Friedrich Richter)が自身の個人名Johannのフランス語表記Jeanを筆名に使ったのをシューマンが真似てみたのかも知れない。
 
楽譜はやはり、進めば進むほど黒っぽくなって行く感じなので練習には向いているのだろう。だが、作曲の背景を知り、シューマンの意図を汲み取って演奏するのは、「子供の情景」とは違った意味できわめて難しいのではないか。終曲はメトロノーム記号が4分音符163のすごい速度指定とfで始まり、最後がppp高野先生は長くて輝かしいピアノ人生が凝縮した「パピヨン」を静かに弾き終えた。アンコールは「トロイメライ」。大きな拍手が続いた。先生のなお一層のご活躍をお祈り致します。(走尾 正敬)