たまちゃんバス東ルート時刻表

TAMA音楽フォーラム

若手演奏家育成とクラシック音楽の振興を目指します

活動履歴2018

セミナーの内容

2018.1.14.(日)15時開演

レクチャー&コンサート
講 師:高野耀子(ピアノ)  
 

 
《コンサートプログラム》

J.S. Bach :半音階的幻想曲とフーガ BWV 903 
W.A. Mozart :ソナタ 第10番 ハ長調 K 330
L. v. Beethoven :ロンド ハ長調 op.51-1
F.Chopin :バラード第1番 ト短調 op.23 
              ノクターン第4番 ヘ長調 OP.15の1
    ノクターン第7番 嬰ハ短調 Op.27の1
    ノクターン第16番 変ホ長調 Op.55の2

F.Mendelssohn :厳格なる変奏曲 ニ短調 OP.54
 
 
 


 

2018.2.17.(土)15〜18時

公開レッスン&コンサート
講 師 :佐久間由美子(フルート)
共 演 :岡本知也(ピアノ)

 
《コンサートプログラム》
J.S.バッハ:フルートのための無伴奏パルティータイ短調 BWV1013 (1722/23年)
C.Ph.バッハ:フルートソナタ(無伴奏) Wq.132/H562(1747年)
C.Ph.バッハ:フルートソナタト長調 Wq.133/H564 " Hamburger Sonate" (1786年)

《受講生》
・森山 豊(みのり)   国立音楽大学卒業、同大学管弦楽コース修了。  
 
・占部 智美(さとみ)   慶応義塾大学文学部独文学専攻ならびに桐朋学園芸術短期大学芸術科音楽専攻卒業。同短期大学専攻科を経て、現在桐朋オーケストラ・アカデミー研修課程に在籍。

 
 
 


2018.3.24.(土)15〜18時

レクチャー&コンサート
講 師 : 河野文昭(チェロ)
共 演 :河野美砂子(ピアノ)

 
《コンサートプログラム》
ベートーヴェン:チェロソナタ 第4番 ハ長調
ベートーヴェン:モーツァルトの「魔笛」の「恋を知る男たちは」の主題による7つの変奏曲 変ホ長調

 
 


2018.4.22.(日)15時開演

レクチャー&コンサート
講 師:クァルテット・アルモニコ 
 

 
《コンサートプログラム》

ハイドン  弦楽四重奏曲 変ロ長調「日の出」op.76-4 
ベートーヴェン 弦楽四重奏曲「ラズモフスキー第3番」ハ長調 op.59-3
ウェーベルン  弦楽四重奏のための6つのバガテル op.9

 
 


2018.5.12.(土)15〜18時

公開レッスン&コンサート
講 師 : 佐々木 亮(ヴィオラ)
共 演 :大伏 啓太(ピアノ)

 
《コンサートプログラム》
シューマン:おとぎの絵本 op.113
ヒンデミット:ヴィオラソナタへ調 op.11-4

《受講生》
・佐川 真理(Va)   桐朋学園大学卒業。現在、桐朋オーケストラ・アカデミーに在籍。  
下田 絵梨花(Pf) 桐朋学園大学卒業。

・塚本 遼(Va)  東京藝術大学卒業。現在、東京音楽大学科目等履修生。  
横山 瑠佳(Pf)   東京藝術大学附属高校及び同大学卒業。現在同大学大学院在学中。

・日下 水月(Va) 桐朋学園大学4年在籍。  中山 あまね(Pf)  桐朋学園大学4年在籍。

 
 
 


2018.6.10.(日)15時開演

レクチャー&コンサート
講 師:ゴットリープ・ヴァリッシュ(ピアノ)
通 訳:薮田京子

 
《コンサートプログラム》

シューベルト:ピアノソナタハ長調 D840「遺作」からの抜粋
シューベルト:ピアノソナタ 嬰へ短調 D571(未完)
シューベルト:ピアノソナタホ短調 D769a(断片)
シューベルト:ピアノソナタへ短調 D625/505
 
 


2018.7.1.(日)15〜18時

公開レッスン&コンサート
講 師 : 植田 克己(ピアノ)
共 演 : 玉井 菜採(ヴァイオリン)

《コンサートプログラム》
ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」イ長調 op.47

《受講生》

a) 今岡 秀輝(ヴァイオリン)  東京藝術大学大学院音楽研究科1年在学中   
横山 瑠佳(ピアノ)      東京藝術大学大学院音楽研究科1年在学中  
 
b) 藤瀬 実沙子(ヴァイオリン) 東京音楽大学大学院修士課程2年在学中  
鳥越 菜々(ピアノ)       東京音楽大学大学院修士課程2年在学中

 
 


 

2018.7.21.(土)15時開演

レクチャー&コンサート
講 師:星野 宏美(音楽学)
演 奏:長尾春花(ヴァイオリン)、加藤洋之(ピアノ)
 

《コンサートプログラム》


メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調 op.64
 
 
 


2018.8.19.(日)15時開演

コンサート
演 奏:葵トリオ
秋元孝介(ピアノ)小川響子(ヴァイオリン)伊東裕(チェロ)
 

《コンサートプログラム》


ハイドン: ピアノ三重奏曲 ハ長調 Hob.ⅩⅤ:27
アイヴス : ピアノ三重奏曲
リーム : Fremde Szene Ⅲ
シューベルト : ピアノ三重奏曲第2番  D.929
 
 
 


2018.10.20.(土)15時開演

レクチャー&コンサート
講 師:山本美樹子(ヴァイオリン)
演奏:小坂 圭太(ピアノ)、荒井 結子(チェロ)

 

《コンサートプログラム》


シューベルト:コンチェルトシュトゥック ニ長調 D345(ピアノ伴奏版)
シューベルト:華麗なるロンド ロ短調 作品70 D895 

シューベルト:ノットゥルノ 変ホ長調 D897
シューマン:幻想小曲集 イ短調 作品88 
シューマン:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第3番 イ短調 WoO2
 
 
 


2018.11.17.(土)15時開演

レクチャー&コンサート
講 師:野平一郎(ピアノ)


 

《コンサートプログラム》


ベートーヴェン :ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 作品110  
ベートーヴェン :ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 作品111



 
 


2018.12.9.(日)15時開演

レクチャー&コンサート
講 師:小林道夫(チェンバロ)
共 演:服部芳子(ヴァイオリン)


 

《コンサートプログラム》


J.S.バッハ:イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971
J.S.バッハ:パストレㇽラ ヘ長調 BWV590より第2、第3楽章
D.スカルラッティ:ソナタ ハ長調 K.513、ハ長調 K.159
L.-C.ダカン:ノエル
J.-C.モンドンヴィル:ヴァイオリン・ソナタ 第6番 イ長調
G.F.ヘンデル:ヴァイオリン・ソナタ ニ長調 Op.1 Nr.13
J.S.バッハ:フランス組曲 第5番 ト長調 BWV816
 
 
 


セミナーレポート

2018年3月24日(土)15時 スタジオ・コンチェルティーノ
 

 
レクチャー&コンサート
講師:河野文昭(チェロ)
   河野美砂子(ピアノ)
 
 
今日はピアノとチェロのデュオのセミナーである。まず、岡山潔TAMA音楽フォーラム理事長からお二人の紹介があった。河野文昭氏は岡山潔弦楽四重奏団のチェリストであり、ともにベートーヴェンのすごさに共感してきた。美砂子夫人もベートーヴェンについて興味深い観点をお持ちなのが印象的であった。そんなことでお二人をお招きした。
 文昭氏は、今日のレクチャーについて、NHKの朝のドラマの夫にしゃべらせない夫婦漫才を連想させて会場の笑いを誘った後、最初にベートーヴェンのピアノとチェロのためのソナタ第4番作品102-1の話の後、全曲を演奏し、そのあと、ベートーヴェンの「魔笛の主題による7つの変奏曲」の解説と実演を行うと述べた。
 第4番は主に美砂子氏が解説を担当し、文昭氏が合の手を入れ、演奏による実例が示されるなごやかで興味深いレクチャーとなった。その要点を以下に摘記する。
*チェロの世界でバッハが旧約聖書、ベートーヴェンが新約聖書といわれるが、バッハに身体的面白さもあり、ベートーヴェンも精神的なだけでなく、新しいアイデアでの実験やいろいろな挑戦を最後までやった人ととらえたい。この4番のソナタも同様である。
*チェロ・ソナタ5曲全体が大きな一つの作品とみることもできる。ベートーヴェンもそれを意図していたかもしれない。1番から5番の調性はファソラドレであり、すこし意図的である。楽章数も1番が2、2番が23番が34番が25番が2とシンメトリーをなしていて、3番の第2楽章がいわばこの山脈の頂点をなしている。そのスケルツオの執拗さは意識的なのかもしれない。
*ソナタ第4番に焦点を合わせると、楽章は二つだけ、ベートーヴェン以前のソナタでは楽章が34が基本だった。彼のソナタはとにかく面白い。第3番の親しみやすい冒頭部に比べると4番はマニアックといえるが、第1楽章のアレグロ部には、3番の冒頭旋律が短調になって使われている。よく調べると、4番の第1楽章の冒頭のアンダンテ部の下降音型は第1番とも第2番とも関係している。これがベートーヴェン的なのだといえる。
*ベートーヴェンはこのように、以前の自分の作品をすごく意識して新しい作品を書いたといえる。彼の32曲のピアノ・ソナタにもそれがうかがえる。作品102の2つのチェロ・ソナタの場合も、その前の3曲とつながろうとした。しかし、関連はしていても内容は全く新しい。彼のソナタには必ず新しさと実験があった。前のものを壊して次のところへ行こうとしていた。ソナタに形式があり、短歌にも57577の定型がある。歌人としての私(美砂子氏)も定型からはみ出そうとする。ベートーヴェンにも型から出ようとする趣を感じる。
*和音について話をすると、ベートーヴェンは減七和音を好んだ。何か不吉で不安なことを連想させる和音である。これを半音下げた属七和音となると雰囲気が一変してその緊張が間もなく解決に向かうことを予測させる。この4番のソナタの第1楽章でもこれが使われている。減七をどれだけ意識するか、それとも属七和音の演奏の仕方で柔らかさをより重視するかは演奏者の解釈次第となる。
*第2楽章のアダージオはピアノとチェロの対話のなかで和音をつくっていく。そして対立から和解への様相を描き出す。アレグロに入るところで第1楽章のアレグロ部の音型が戻ってくる。
 以上でソナタ第4番の説明が終わり、ソナタの全曲が演奏された。話題が豊富で、説得力あるレクチャーの後だけに、先入観ではなく、曲の素晴らしさを実感させる演奏となった。
 休憩の後、「魔笛変奏曲」のレクチャーが主に文昭氏によって行われた。その要旨は以下の通り。そしてこの曲の実演で、じつに内容豊かなレクチャーコンサートの幕を閉じた。
*ベートーヴェンは変奏曲が上手であり、好きであった。いろいろな曲にそれが表れているし、ソナタ形式のなかにも取り入れた。第9交響曲でも第3楽章、第4楽章で変奏を行っている。
*この「魔笛変奏曲」はオペラ「魔笛」のなかのパパゲーノとパミーナのアリアをもとに7つの変奏をしたもの。当時ウィーンでは「魔笛」がはやっていて、ベートーヴェンもモーツアルトのオペラでは「魔笛」を好んでした。
*彼らしい仕掛けがこの変奏曲にもあり、主題が対話しながら進行して、第1変奏に入っていく。第4変奏は変ホ短調となり、様子がかわる。ここには、パミーナの悲しいト短調アリアをピアノ伴奏部に織り込んでいる。第5変奏で少しテンポを速めて、第6変奏のアダージオとなる。そして第7変奏で初めてアレグロとなる。コーダもついている。変奏の中で雰囲気がどのように変化していくかを楽しんでほしい。
*もう一つこの変奏曲で面白いのは第3変奏の旋律で、これはそのころ作曲中だった第2交響曲第2楽章の第2主題と同じもの。
*なぜこの曲に作品番号がないのか、番号なしの46番なのか。彼はこれとは別に「魔笛の主題による12の変奏曲」作品66を書いている。これには作品番号がついているが、出版社が勝手につけたもので、内容は作品番号がない7つの変奏曲の方が優れている。作品番号がないのは、チェロという楽器が独奏楽器としてまだ十分に認知されていなかったからだとも考えられる。ピアノとチェロが完全に対等になったのは、第3番作品69からである。なぜチェロは2重奏で扱いにくいのか。それは当時、チェロの高音を弾くのが難しかったからだろう。
*この変奏曲は、ピアノとチェロの対話に妙味があり、よくできた作品だといえる。
*ベートーヴェンの音楽の特徴として、単純な動機(素材)をもとにして音楽を展開していくところにある。このような音楽だからこそ、すたれることなくいまも生き残って人気を保っているといえる。(記録:西谷晋)
 
 

      

公開レッスン&コンサート
2018年5月12日(土)15時開演 スタジオ・コンチェルティーノ

      講師:佐々木亮(ヴィオラ)
      共演:大伏啓太(ピアノ)
 
 本日の講師佐々木亮さんは日本を代表するヴィオラ奏者で、現在NHK交響楽団の首席ヴィオラ奏者。また、2008年から14年まで岡山潔弦楽四重奏団メンバーとしても活動した。昨年11月のTAMA音楽フォーラムで今井信子さんとバルトークの「44の二重奏曲」ヴィオラ版を演奏してくださった。また、今日の共演者、ピアニストの大伏啓太さんは大活躍中の若手で、以前、今井さんとこの場所でブラームスのヴィオラ・ソナタ第2番演奏していただいた。このような岡山芳子・TAMA音楽フォーラム副理事長の歓迎と紹介の言葉とともに公開レッスンが始まった。曲目はシューマンの「おとぎの絵本」(ピアノとヴィオラのための4つの小品)作品113で、ヴィオラとピアノの36人の若手演奏家が受講した。
 まずa組(佐川真理さん(Va)=桐朋学園大卒と下田絵梨花さん(Pf=同)が第1曲、第2曲を演奏し、第1曲についてレッスンを受けた。ついでb組(塚本遼さん(Va=東京芸大卒と横山瑠佳さん(Pf=東京芸大大学院)が第2曲と第3曲、そしてc組(日下水月さん(Va=桐朋学園大4年と中山あまねさん(Pf=同)が第4曲を演奏し、それぞれ指導を受けた。講師の佐々木さんはなんども自分でヴィオラを弾きながらのまことに熱意ある綿密なレッスンとなり、予定の時間を超えるほどであった。ここでは、把握できた要点だけを以下に記したい。
(第1楽章=速くなく))
*流れ良く演奏できたが、この楽章は和音が頻繁に変わるので演奏がとても難しい。もっと強弱をつけるとよい。
*(冒頭を再演させた後)ここがすでに難しい。ここは一つのストーリとなっている。3小節目にひとつ山がある。この豊かな内容を表現したい。強弱の差を相当つけないといけない。表情の変化がほしい。
17小節目は驚きの表現を。
*先へ先へと急ぎすぎないように。pのところは繊細な音作りを。fpの直前はディミヌエンドしてもいいかも。
50小節あたり、空気が入った音がほしい。
57小節からのクレッシェンドの音の上がり下がりのところ、N響によく来る指揮者ブロムシュテットさんがリハーサルで、クレッシェンドであっても下降音型では音を減衰させるのだといっていたがその通りだ。
*最後のところはppだけれど、ヴィオラの音は弱弱しくなく、もう少し音の芯がほしい。
(第2曲=いきいきと)
*いろいろ考えて演奏されたが、もっと強弱の差がほしい。いい意味での驚きがほしい。最初は勇ましくファンファーレ的に弾いて、あとは弱くして変化をつける。
*といって、すこしあとのところでは、初めに強く弾きすぎると後の発展性がない。とにかく強弱の変化を。3連音のクレッシェンドは難しいがしっかりと弾くこと。滑らかな中間部は弱くても、はっきりと弾く必要がある。ピアニッシモであっても、弓使いの敏捷な初速がほしい。
111小節以下、ディミヌエンドはよかったが、もう少し「ひとときの夢見心地」という気持ちで。同じ4分音符であっても、音の表情を変えること。
183小節あたりのコーダでは聞く人にわかってもらえるように弾くこと。
(第3曲=迅速に)
*いい演奏だった。
*ただし、なるべくアーティキュレーション(歯切れ良い発音)をつけるように。
*最初から飛ばしていってよい。そしてそのあと少し変化をつけること。
8小節からのfpのところはもう少しfを強く弾くこと。
(第4曲=ゆっくりと、メランコリックな表情で)
*出だしは強すぎず、内省的に演奏したい。
3小節目、ヴィオラの存在感は必要だ。この和音には驚きがほしい。ppであってもビブラートをつけて心を込める。臨時記号が出てきた時というのは、だいたい大事なところだ。
*感情が高まるところなので、音が切れてしまわないように。弓の返しがわからないように弾くと、音がつながる、このように・・・と弾いてみせる。
77小節から、ピアニッシモでも音が弱くなりすぎないように。弱くてもすごく大切なところなのだから。
*そのあとのクレッシェンドとディミヌエンドのところの弓の返しを速く。
 
 休憩の後、コンサートに移った。曲目はレッスンで取り上げたシューマンの「おとぎの絵本」全4曲とヒンデミットのヴィオラとピアノのためのソナタ へ調 D625。シューマンではレッスンでの指導通りの変化に富んだ演奏となり、とりわけ第4曲の深い瞑想に聴衆は静まり返って傾聴した。ヒンデミットは第1楽章の静謐で穏やかな幻想から次第に感情を高め、第2楽章の変化にとんだ主題と変奏を経て、第3楽章フィナーレでは、曲想がさらに情熱的に盛り上がるさまをヴィオラとピアノが十二分に表現して、圧倒的な幕切れとなった。
(記録者:西谷晋)
 
 
 
 

 

 レクチャー&コンサート 
2018610日(日)15時 スタジオ・コンチェルティーノ

 
講 師  ゴットリープ・ヴァリッシュ(Gottlieb Wallisch ピアノ)
通 訳  薮田 京子
 
 雨の季節にはいり、この日は台風5号の影響もあって、昼ごろから本降りになった。ピアノ曲や室内楽を聴くには、こんな落ち着いた雰囲気がかえってよいのかもしれないなどと思ったりしながら、スタジオ・コンチェルティーノに向かった。
 第87回セミナーの講師はヨーロッパを中心に活躍しているウィーン生まれのピアニスト、ゴットリープ・ヴァリッシュさん。この8月で40歳になる。まず、岡山潔理事長がヴァリッシュさんを紹介。「2年半ほど前にこの(第55回)セミナーでウィーンのハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの3人を取り上げて、作風の違いなどを話していただきました。ゴットリープとはいろんなつながりがあります。3年前に予定していた(岡山潔弦楽四重奏団の)ヨーロッパ公演の曲目にブラームスのピアノクインテットがはいっていたのですが、その時のピアノがヴァリッシュさんでした。この公演が不可能になり、何ともくやしかった」と振り返った。
 
 「今日のテーマは日ごろあまり聴くこともない曲、シューベルトの未完成のピアノソナタです。完成した作品が11なのに対し、途中で終わっている断片など12曲が未完成で、それらで250ページのこの本一冊になります」とヴァリッシュ先生。31歳で早逝したシューベルト(Franz Peter Schubert 17971828年)は幅広い分野にわたって1000を超える楽曲を残したが、死後に見つかったり、途中で作曲をやめたりしたものが少なくない。先生は「いろいろな分野で未完の作品があります。まず思い浮かぶのは交響曲(ロ短調、音楽学者オットー・エーリヒ・ドイチュによる作品番号D759)。第1、第2楽章は完成しているが、第3楽章はちょっと書いてあるだけ。ほかにも弦楽四重奏曲ハ短調(D703)は第1楽章しか完結していなくて、第2楽章はスケッチだけ。あまり知られていないオラトリオ『ラザルス』(D689)も未完成です」「ほかの作曲家にも未完のものがあり、モーツァルトの『レクイエム』がいい例です。プッチーニの『トゥーランドット』も、ベルクの『ルル』もそうです。バッハの『フーガの技法』も最後の方は完成していないのでは。これは晩年の作品だったので完成しなかったのか」と、未完に終わった曲をいくつか挙げた。
 
 そして、ピアノに向かって弾き始める。「これをシューベルトが作曲したのは何歳の時だったでしょうか」と聴講席に質問。「21歳くらい」「成熟した大人が書いたと感じられます」といった答えが返る。「これはいちばん早いソナタ(ホ長調D157、一連番号で第1番)で、1815年、17歳だった。第3楽章までで、第4楽章がありませんが、この先はどうなるのか、なぜここで終えたのか考えてみましょう。もしかしたら原稿が紛失してしまったのかもしれないし、ほかの曲にとりかかったのでやめたのかもしれません。未完の曲には謎が残ります」「1815年にはシューベルトがアントニオ・サリエリのレッスンを受けていた事実があり、弦楽四重奏曲(ト短調D173、第9番)と2つの交響曲(第2、第3番)も作曲している。このピアノソナタは弦楽四重奏のようなものをイメージして書かれています。このころから、彼はピアノソナタ、弦楽四重奏曲、交響曲をとても大事なものとして意識していた」などと解説する。
 
続けて、「彼は新しい実験を試みています。1817年、20歳の時の6曲のソナタ・シリーズのなかに、変ニ長調という今までにない調性で書かれたもの(D567)がある。ベートーヴェン、モーツァルト、ハイドンもこの調性では書いていない」と、シューベルトの革新性を指摘した。このあたりになると、音楽の知識に乏しい筆者は苦しい。調性は音の強弱、長短などと併せ、高低の細かな変化で微妙な響きを作り出す技法といった物理的理解が関の山で、変ニ長調は五線譜のト音記号の次に半音下げるフラットが5つも付いている複雑な調性くらいのことしか分からない。
 
 次に先生が説明なしで弾いたのは1817年の嬰へ短調D571(第8番)で、第1楽章の展開部で途切れている。「静かですが、どんなことが頭に浮かびましたか」という問に、聴講席から「ベートーヴェンの月光ソナタに近いのでは」という声。先生は「月夜というか、そういったイメージですね。ショパンの『舟歌』にも近く、いつも同じ小さな動きが続くのが特徴です。そこに問題があり、コントラストがつけられない。ソナタ形式には2つの主題を対比させて緊張感を出すねらいがあるが、この曲は第1、第2主題が似ていて区別がつかず、緊張が欠けています。だが、たいへん多くの転調が行われ、広がりがあってすばらしい」「ソナタ形式ではあるのですが、(形式にとらわれない)幻想曲のようになっている。また、シューベルトはベートーヴェンのプレッシャーを感じていたのかもしれない」と分析する。
 
 3曲目は1823年作曲とされる39小節しかない短いスケッチ(ホ短調D769a)。「前の曲が何の変化もなかったのに対し、ドラマチックにしようとした。オーケストラ的な発想がうかがえる」という。当時は歌劇と交響曲が中心の時代だったので、「歌曲の王」と異名をとったシューベルトもピアノソナタ、弦楽四重奏曲を書いているうちに交響曲への道を歩みだしたということか。次の4曲目は1825年のハ長調D840(第15番)で、1861年に出版する際に誤って「遺作(Reliquie)」とされた。「未完成交響曲」と同じように第1、第2楽章は完成したが、第3、第4楽章は未完で、先生は「第1楽章がブルックナーの交響曲のように聞こえるのが興味深い」と言う。
 
「未完成交響曲」(1822年作曲)はシューベルトの死から37年目の1865年に発見、初演された。また、このソナタは、1838年にウィーンに足を運び、シューベルトの兄フェルディナントのもとを訪ねたロベルト・シューマンが交響曲ハ長調「ザ・グレイト」D944と一緒に自筆譜を発見したとされている。筆者はこれら2つの交響曲からもブルックナーの響きが聞こえるように思う。先生は『遺作』の第1楽章を4分ほどの繰り返し部分を省いて演奏した。起伏の大きな力強い曲で、なるほど交響曲を連想させる。
 
15分の休憩の後、解説をはさみながら第2楽章(ハ短調)と、完成途上の第3楽章(変イ長調)のそれぞれ冒頭部分を弾き、「ハ短調から変イ長調へはちょっと飛躍した感じ」「第3楽章は変イ長調から突然、イ長調に変わり、変イ長調に戻らなければならないのにそのまま終わっている」「彼はどう続けたかったのか、結論が出せずに失敗したのか、ただ単にやめてしまっただけなのか」と、作曲家の心のうちを想像する。さらに「シューベルトに失礼かもしれないが、車が行き止まりに入って困り、戻り方がわからなくなったようなものか。フォルテッシモフォルツァ―トを書き込むなど多くの実験をしている」「では、未完を終わらせる(完結させる)ことができるのか。この曲ではエルンスト・クルシェネクやパウル・バドウラ=スコダらが補筆していますが、私はそうはしませんでした。シューベルトが続きを思いつかなかったことに思いを致す方が面白いですから」と付け加えた。
 
コンサートの曲目はへ短調D625505)。1818年作曲のD625は第1楽章が未完成で、へ短調、ホ長調、ヘ短調という3楽章構成のソナタとされてきたが、最近の研究でアダージョ変ニ長調D505がD625の第3楽章だったという見方が有力になっているという。「ヘ短調はほの暗い雰囲気でベートーヴェンの『熱情』を想起させ、ショパンの変ロ短調の第4楽章のようにも聞こえる」と解説する一方で、第1楽章に展開部はあるが、再現部がないのは、時間がなかったからとか、食事に行きたかったのだろうかといったように、何故かを考えることが重要」などとジョークも飛び出す。完結しない作品が多く残り、謎めいている半面、時代を先取りする実験、挑戦を続けたシューベルトの人間像を深く探求する先生の全曲演奏を目をつぶって聴いた。学ぶべきは、演奏家が楽曲の本質をつかむには作曲者の内面に迫るアプローチが欠かせない、ということなのだろう。筆者にはたいへん難しいレクチャーだったが、大いに勉強になったような気がしている。 (走尾 正敬)
 
 

レクチャー&コンサート
2018年7月21日(土)15時開演 スタジオ・コンチェルティーノ

 
講師:星野宏美(音楽学)
演奏:長尾春花(ヴァイオリン独奏)
  :加藤洋之(ピアノ伴奏)
 
 室内楽中心のTAMAフォーラムの初めての協奏曲の登場である。あいさつに立った岡山芳子・TAMAフォーラム副理事長は、岡山潔理事長ともども、わたしたちのたっての願いで実現した企画であり、国際的評価の高いメンデルスゾーン研究家の星野さんにレクチャーをお願いした。そして期待される若手ヴァイオリニストの長尾さんと国際的に活躍中のピアニストの加藤さんで全曲を演奏していただくと語ってユニークなレクチャーコンサートが始まった。
 星野宏美講師は、この完璧な美しさを備えた奇跡的な傑作についてはいかなる言葉もむなしい。しかし与えられた時間の中で、できるだけ簡潔に語りたいとしながら、曲の成立について、綿密な考察を展開した。その一端をここに記録する。
*ホ短調のヴァイオリン協奏曲は珍しい。独奏の開始の新鮮さとその躍動感から全曲を一気に聞かせる名品である。
*第2次大戦後のメンデルスゾーン研究は客観的実証を大切にし、自筆草稿、38年の生涯に書かれた書簡などの研究が進んだ。2017年に新全集が出て、いくつかの新しい成果を生み出している。
*彼はこの曲のスケッチを7つ残している。新全集ではスケッチの書かれた時期が不明であることが分かったとされているが、今日はわたしなりの仮説を出したい。
*この曲の着想は、1838年7月の手紙に見える。時に29歳。1835年にライプチヒ・ゲヴァントハウスの指揮者となり、翌年、優れたヴァイオリニスト、フェルディナント・ダヴィッドを首席奏者に迎える。ここから美しい室内楽、弦楽四重奏曲作品44の3曲、ヴァイオリンソナタヘ長調、チェロソナタ変ロ長調を完成、1839年にはピアノ3重奏曲ニ短調作品49が生み出された。
*1838年のダヴィドへの手紙で、君のためにヴァイオリン協奏曲を作曲したい。冒頭をどうするか考えあぐねていると伝えている。弦楽四重奏曲作品44-2と同じく、最初からホ短調で構想されている。協奏曲は第1楽章がホ短調からホ長調へ、フィナーレはホ長調とロ長調と華やかな効果を追求している。
*私はスケッチ①が7つのうちの最初のもので、1838年にできたと考えている。ホ短調四重奏曲とこのスケッチが似ているからである。ここで長尾さんがスケッチ①の冒頭8小節を弾く。そして、ヘ長調ヴァイオリンソナタの冒頭を長尾さんと加藤さんが弾く。ヘ長調ながらこの冒頭とスケッチ①はよく似ている。ホ短調四重奏曲の第1ヴァイオリン主題もシンコペーションも似ている。
*ヴァイオリン協奏曲第1楽章のアレグロ・モルト・アパッショナータという発想は、四重奏曲作品44-1と44-2の中間に位置する躍動の表現と見ることができる。
*ダヴィッドはヴァイオリン協奏曲を歓迎する返事を出したもののなかなか完成しない。催促すると、メンデルスゾーンは書きたいのはやまやまだが、冒頭などがうまくいかないと返事する。1839年にはまだ彼は曲を書いていないというのが私の仮説だ。
*ここでスケッチ①とスケッチ②のはじめ21小節を長尾さんが弾き比べる。スケッチ②のほうが協奏曲の完成版に近いがスケッチ①も②に生かされている。スケッチ①はシの音が押しつけがましいが、スケッチ②でメンデルスゾーンは音楽を語り始めたようだ。
*スケッチ②を書いたのは1840年7月だと考える。この時彼はヴァイオリン協奏曲が完成と書いている。しかし実際には、ダヴィッドの催促にもかかわらず、1844年9月にやっと完成した。
*第1楽章の冒頭部分は前半の歌と後半の語りかけからなっている。付点楽譜から自由になったが、語りかけのところの付点表現は残された。
*この協奏曲の特徴の一つは、同音反復にある。例えば第1楽章の第2主題の管楽器のメロディがそうだし、第2楽章の中間部、第3楽章への移行部でも同音反復してから主部に入り、後半にも同音反復が出現する。
*ニ長調四重奏曲作品44-1の躍動感が協奏曲の第3楽章の旋律に生かされている。ブリリアントという点でこの2曲は共通している。
*ヴァイオリン協奏曲が完成した1844年に35歳のメンデルスゾーンは何をしていたか。フランクフルト郊外の保養地バート・ゾーデンに2か月逗留していた。鉱泉が19か所あり、彼もこの炭酸水を飲んだようだ。この地にはワグナーもチャイコフスキーも滞在した。
*彼は1835年にセシルに出会い、37年に結婚、新婚旅行中に弦楽四重奏曲を書き始め、38年に長男カールが生まれ、ヴァイオリン協奏曲を着想した。それが案外手間取り6年かかったわけである。1842年、13歳のヨアヒムがベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲をメンデルスゾーンの指揮で復活演奏し、それに刺激されてメンデルスゾーンが完成を急いだとも考えられる。
*メンデルスゾーンはフランクフルトからゾーデンへ蒸気機関車と馬車を乗り継いでいった。彼はベルリンやポツダムへ行ったり来たりの忙しい生活をしていたが、これも蒸気機関車があったからこそである。
*絵が得意だった彼は1844年9月にゾーデンでの休暇の様子を素描している。中央に家族のだんらん、下にフランクフルトの町、蒸気機関車などが描かれている。彼は本当に家庭を大切にした人だった。
*1845年3月、ヴァイオリン協奏曲はライプチヒでダヴィッドにより初演されたが、メンデルスゾーンの姿はなかった。彼はフランクフルトの家族のもとにいた。出来れば指揮よりも作曲に専念したいとの思いが強まっていた。
*彼は1847年に38歳で逝去した。このみずみずしい感性と躍動感に満ちたヴァイオリン協奏曲は彼の最後の管弦楽作品となった。病弱だった妻のセシルもこの5年後に亡くなった。
 
 以上で星野宏美講師のレクチャーは終わり、休憩後、この3楽章からなるヴァイオリン協奏曲全曲が長尾春花さんのヴァイオリン独奏と加藤洋之さんのピアノで演奏された。その演奏は見事というほかはないもので、この曲の優美さ、情熱、抒情をあますところなく描き出した。オーケストラ伴奏部は、加藤さんのピアノの素晴らしいサポートにより曲の構造をかえって明晰にしたと思えた。(記録:西谷晋)
 
 
 

レクチャー&コンサート
2018年10月20日(土)15時~スタジオ・コンチェルティーノ

 
講師山本美樹子(ヴァイオリン)
共演:小坂圭太(ピアノ)荒井結(チェロ)
 
 
この日は初期ロマン派音楽をテーマにして、ヴァイオリニストの講師、山本美樹子さんが登場した。これに先立ち、岡山芳子TAMA音楽フォーラム副理事長(現理事長)から岡山潔理事長が3年にわたる闘病のあと、去る10月1日に逝去したとの報告があり、今日の講師、山本さんは岡山潔理事長の教え子であると紹介された。
レクチャーコンサートは前半がシューベルトの3曲、小協奏曲ニ長調D345、「華麗なるロンド」ロ短調D895、ピアノ三重奏曲「ノットゥルノ」変ホ長調D897。休憩をはさんで後半はシューマンの幻想小曲集イ短調作品88とヴァイオリン・ソナタ第3番イ短調WoO2の2曲がそれぞれ、山本さんの解説の後演奏された。
山本さんは東京芸大・同大学院博士課程修了。現在、演奏活動の傍ら東京芸大大学院とお茶の水女子大で講師を務めている。ピアノの小坂さんは東京芸大・同大学院修了。現在、お茶の水女子大の准教授。チェロの荒井さんアメリカ留学後にドイツ国立ハンブルグ音楽大学に留学。現在は帰国してソロと室内楽中心に活躍中。
山本さんのレクチャーは、年表付きの3ページにわたる説明文と2ページ12の譜例をもとにした詳細かつ熱意に満ちた内容だったが、ここでは残念ながら、ごく一部しか紹介できない。以下は解説の一端である。
音楽演奏家にとっても、ここにいる皆さんにとっても、近代への扉を開いたシューベルト、シューマンの作品は宝探しのようなものだと思われる。シューベルト(1797~1828)というとまず歌曲が頭に浮かぶが、彼の作品はあらゆるジャンルにおよび、その多彩さには驚くべきものがある。シューベルトの時代は市民階級が社会の中心になりつつあり、家庭内での演奏がさかんになっていた。
彼の若い時は、モーツァルトに惹かれていた。それはたとえば1816年6月の日記にもよくあらわれている。そして、その後、1820年あたりから、よりよい世界への憧れや幻想、現生からの超越への希求、つまり個人的で内面的なロマン主義的思想に転回してゆく。これは、それまで対極にあったベートーヴェンへの接近でもあった。
これから演奏する1816年の小協奏曲と、晩年1826年の「華麗なるロンド」、1827年の「ノットゥルノ」にこのようなシューベルトの変化と成熟ぶりがよくあらわれている。
一方のシューマン(1810~1856)はライプチヒ大学に入った1828年にシューベルトに触発された連弾曲「8つのポロネーズ」をつくるなどの作曲活動を始めたが、激動
の時代の中で、社会情勢に敏感な面もあった。幻想小曲集は4つの小品からなり、並列的であるとともに、曲同士の連携と対比があり、それがロマン的フモール、高い次元の超脱性をもたらしている。
最後のシューマンのヴァイオリン・ソナタ第3番イ短調は、山本さんが国立音楽大学の藤本一子名誉教授の指導によりその作品論で博士号を取得したこともあり、説明に一段と熱がこもった。
この曲はヨアヒムの演奏に刺激されたシューマンが友人ブラームスとA.ディートリッヒの3人で共作した「FAEソナタ」に基づいている。FAEとは、ヨアヒムの座右の銘「Frei Aber Einsam=自由にしかし孤独に」の頭文字である。シューマンはこのソナタの第2楽章と第4楽章を担当したが、この初演直後の3日間で第1楽章と第4楽章を書き足して、ヴァイオリンソナタ第3番に仕上げた。第1楽章はゆっくりとした序奏から生き生きとした主部に入るソナタ形式。断片的で並列的な動機の貼り合わせによる多層な時間軸を創出している。第2楽章は間奏曲で、FAE音型の主題を提示し、対位法的に動く。第3楽章はスケルツオ、小ロンド形式により、焦燥感と幸福な幻想が対比される。第4楽章フィナーレは、FAE主題をいきいきと展開しながら、すべての楽章の動機が現れ、コーダでは真に幻想的かつ協奏的な二重奏を展開する。ここではすべてを超越したまばゆい音楽世界が現出する・・・・と言外にいまは亡き師、岡山潔への想いを語っていた。(記録:西谷晋)
 
 

 レクチャー&コンサート
2018年1117日(土)15時 スタジオ・コンチェルティーノ

 
 
講 師  野平 一郎(ピアノ)
 
 第92TAMA音楽フォーラム室内楽セミナーは故・岡山潔理事長の跡を継いだ岡山(服部)芳子・新理事長の司会で始まった。今回の講師はおなじみの野平一郎・東京藝術大学作曲科教授。これまではフランス音楽を多く採り上げてきたが、昨年7月に上梓した『ベートーヴェン ピアノ・ソナタの探究』(春秋社)を岡山潔理事長(当時)が読んで、野平先生の来年の室内楽セミナーのテーマはこれ、と決めていたのだという。
 
 ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 17701827年)が生涯をかけて取り組んだピアノ・ソナタは彼の交響曲や弦楽四重奏曲とともに音楽史上にそびえる高い峰のひとつ。本書はピアノ・ソナタ全32曲のうち主要な12曲を採り上げ、楽章ごとに検討を加えた専門書で、何世紀にも及ぶ音楽史を踏まえた現代の作曲家でありピアニストでもある野平先生は、年齢とともに進化するベートーヴェンの作曲技法を解き明かしつつ、本人の意図や演奏効果、それらの背景にある時代の変化などを広く深く分析、考察している。
 
レクチャーではまず、ベートーヴェンの作品群におけるピアノ・ソナタの位置づけについて「ベートーヴェン自身はピアニストであり、作曲家として創作を始めたころからピアノ・ソナタは大切なジャンルでした。第1番の作曲は1795年、25歳くらいの時ですが、非常に有名な第23番「熱情」は18045年の作曲で、10年と経たないうちにこれほど多くを書いてしまった。これに対して、交響曲は生涯で9曲しか書かなかった。モーツァルトは40曲以上、エステルハージ家につとめていたハイドンは義務があったから100曲ほども書いています。ピアノ・ソナタでも、1805年以降のベートーヴェンの1曲1曲の比重は交響曲と同じように以前と比べものにならないくらい重い」と指摘、「彼はハイドンやモーツァルトよりもピアノ・ソナタを重く見ていた。彼ら2人にとっては第1楽章を書くことが重要な枠組みで、語弊があるかもしれないが、第2、第3楽章は少し軽い。これに対してベートーヴェンは史上初めて4楽章のピアノ・ソナタを書いた。第1楽章はもちろん重要ですが、フィナーレの比重もそれと同等と考えていた」「第1楽章はソナタ形式、第2楽章は緩徐楽章、第3楽章はダンスの楽章でスケルツォ(モーツァルトまではメヌエットと決まっていたが、ベートーヴェンは典雅なものとは違う、もう少し活発なものを好んだ)、第4楽章はロンドといったように、4つの楽章に別々の形式を与えていた」などと解説した。
 
 野平先生がレクチャーのあとで演奏したのは後期の第31番と2楽章だけの第32番の、ともに1822年の出版で高い精神性を備えた2曲。「初期、中期、後期と分ける(後世の)説明はベートーヴェンから始まったようで、1815年くらいからが晩年になる。1770年生まれなので45歳。今では晩年とは言えないが、創作面ではそう言え、音楽にストーリー性が出てくる。第31番は主要(第1)楽章、第2楽章がダンス、最後の第3楽章はレシタティーヴォが来て『嘆きの歌』とあり、純粋な器楽曲ではなくなってきている。そしてフーガがやって来る。『嘆きの歌』が嘆き度を高めて戻って来て、これが終わると鐘が鳴る。おそらく復活祭の鐘だろうと言ったのは園田高広(故人)です。そのあと、音楽が次第に明るくなって救いがある。第九交響曲やミサソレムニスと並行して作曲を進めていた時代なので、ピアノ・ソナタにも宗教的なものを混ぜたのか」
 
 先生は続けて「ベートーヴェンは展開がなければ意味がないと考えていました。これがピアノ・ソナタを肥大化させていく原因になった。彼の音楽はとてもドラマティックで、切った張ったが支配しているが、オペラ作曲家ではなかった。モーツァルトは再現部でもとに戻り、激しい場面があったことを感じさせない。ベートーヴェンは時間が絶対にもとに戻らない(つまり音楽の時間は不可逆である)ことを証明した作曲家で、再現部はもとに戻さず、同じようでいて少し違う。そして、第3番から反復記号をやめてしまった。さらに、彼ほど調性に敏感な作曲家はいなかった。色彩感覚を持ち合わせていた・・・」などと付け加えた。ベートーヴェンの楽想、表現意欲の高まりが従来の形式に収まらず次々と革新を生み出したうえ、時代を刻印しながら現代にも通じる先見性を備えていたわけで、先生は著書のなかで、長大な第29番「ハンマークラヴィーア」について「もはやその後の何人も凌駕できない『大宇宙』が作り出された。オーケストラも合唱もないピアノという1つの進展途上にある楽器だけで作り上げられた『世界』であり『宇宙』である」(254ページ)と評している。
 
 名人級のピアニストだったベートーヴェンはピアノ製作の技術革新とともに歩み、進化を遂げたとも言える。初期の段階ではウィーン派のピアノ、ワルター(5オクターヴ)などを使い、次にパリのエラール(5オクターヴ半)で第21番「ワルトシュタイン」や第23番「熱情」を作曲、その後、ウィーンのシュトライヒャー(6オクターヴ)で第26番「告別」やピアノ協奏曲第5番「皇帝」などを生み出した。第29番「ハンマークラヴィーア」を作曲中の1818年春にロンドンのブロードウッド社から、大きな音とより低い音が出せる6オクターヴのピアノを贈られ、少なくとも第4楽章はこれを使って作曲したと言われている(後続のピアノ・ソナタでもブロードウッドを使ったようだ)。
 
この出来事から今年でちょうど200年。現存する最古のピアノメーカーとされるブロードウッド社はこれを記念して様々な催しを企画、ホームページに「最も非凡な贈り物(A most remarkable gift)」という短いコラムを載せている。それによると、創業者ジョン・ブロードウッドの三男トーマスが1817年の夏にウィーンのベートーヴェンのもとを訪ねて、難聴が悪化している作曲家が再三、地元のメーカーに、もっと大きな音が出るものを供給出来ないか求めていることを知り、自社のピアノを提供することを決意したのだという。余談だが、ベートーヴェンに贈られたブロードウッドは、ピアノの魔術師と称されたリストの手を経て、1873年からブダペストのハンガリー国立博物館が所蔵している。
 
 スタジオ・コンチェルティーノのピアノはドイツ・ハンブルク製のスタインウェイ。当然のことながら、ベートーヴェンの時代のものよりも格段に優れているので、野平先生の演奏は作曲者自身の脳裏に響いた音よりもずっと洗練されているのでは、などと思いながら第31番、第32番に耳を傾けた。2曲を弾き終えた先生は「アンコールを弾くべきかどうか迷っているのですが、深遠なものでお帰り頂くのは何なので、もう少し前の時代のメヌエットで」と言いながらスタインウェイに向かった。これもまたベートーヴェンらしい健康な響きがスタジオ・コンチェルティーノに広がった。(走尾 正敬)
 
 

レクチャー&コンサート
2018年12月9日(土)15時~18時スタジオ・コンチェルティーノ

 
講師 小林道夫(チェンバロ)
共演 服部芳子(ヴァイオリン)
 
 今年最後のTAMA音楽フォーラムはクリスマス特集、つまりノエルということで小林道夫先生においでいただきました。ここにチェンバロが入るのは初めてのことで、どんな響きがするのか楽しみです――岡山芳子理事長がこうあいさつし、さらに「プログラム後半で、服部芳子とかいうヴァイオリニストも共演します」と付け加えて会場の笑いを誘い、和やかにフォーラムは始まった。
 鍵盤楽器の大家、小林先生はまず若いころから世話になっている島口さんの作ったフレンチモデルのチェンバロを紹介した。このフレンチモデルは低音がよく響き、高音は甘い音という特徴がある。上段と下段の音色が違い、もう一つの弦があって、一緒に弾くとより繊細に響く。つまり、天上の高い宮殿などで弾くにふさわしい楽器であると語りながら、曲の解説に入った。
 J.S.バッハのチェンバロ曲はクラヴィア練習曲集、6つのパルティ―タなどに加え、イタリア協奏曲ヘ長調BWV971がある。これを2弾鍵盤でやるのだが、ピアノとフォルテの細かい指定はあるものの、それ以外の指定がないので、いろいろ考えて演奏する必要がある。こう説明した後、アレグロ、アンダンテ、プレストの全曲を演奏した。このあと「聞く方にはここはとても響きのいい空間だが、私はちょっと困る。皆さんと近すぎるので」と笑わせた。
 次の曲はやはりバッハのパストレルラ ヘ長調BWV590からアルマンドとアリアの2楽章。これはオルガン曲であり、弾いたこともあるが、きょうは故岡山潔さんからクリスマスにふさわしい曲と前からいわれていたので、これをチェンバロでと言いつつ、二つの楽章を演奏した。そして、550曲もあるスカルラッティのソナタは同じ調性の曲がペアになっている場合が多いが、この日は同じハ長調の二つのソナタ(K.513K.159)、遅い曲と速い曲という対照的な組み合わせで弾いた。
 つぎはルイ・クロード・ダカンの文字通りのクリスマス=ノエル。彼はフランスの神童で6歳の時ルイ14世の前でオルガンを演奏した。今日は12あるノエルの第10番を弾くが、これは本来3段鍵盤の曲だといいながら演奏した。
 さてここで、ヴァイオリンの服部芳子が登場し、J.C.モンドンヴィルのヴァイオリン・ソナタ第6番イ長調を演奏した。小林先生は、この作曲家は18世紀中葉にパリで活躍したヴァイオリニストで作曲家だが、いまはあまり演奏されないと解説し、3楽章全曲を演奏し、バロックの雰囲気が会場にみなぎった。
 休憩の後、まずヘンデルのヴァイオリン・ソナタ ニ長調Op1 Nr.13。有名な曲であるからか説明はなく、全4楽章を服部・小林の二人は会場の静まり返るなか、繊細で典雅、心をこめて演奏した。
 つづいて、J.S.バッハのフランス組曲第5番ト長調BWV816。申し上げるひつようはないが、フランス組曲もイギリス組曲もバッハと関係がないし、どちらもフランス的だといえる。フランス組曲は当時とても流行ったので写本が多い。昨年、ヘンレ版を入手し、まだなれないが、といいつつ、全8曲を見事に演奏した。
 これでプログラムは終わったが、会場の熱い雰囲気の中、小林先生は、C.H.ライネッケの「クリスマスのソナチネ」を「これを聞いてバッハの大きなオラトリオを聞いた気になってくださるとうれしい」と言いつつ演奏した。さらに、再び服部芳子が登場し、バッハのヴァイオリン・ソナタ第1番の第3楽章アンダンテ、そして、やはりバッハの「G線上のアリア」が演奏されて、この豊かなクリスマスとバロックが結びついたコンサートは終了した。それは「ここでチェンバロを響かせたい」という故岡山潔理事長の念願通りの午後のひとときでもあった。(記録:西谷晋)