TAMA音楽フォーラム

若手演奏家育成とクラシック音楽の振興を目指します

活動履歴2015

セミナーの内容

「 ニューイヤー・コンサート 〜 高野燿子ピアノリサイタル vol.2」

セミナー形態:  レクチャー & コンサート
講師:    高野燿子(Pf)
 
Mozart :ソナタD-dur K311
Ravel : 水の戯れ、ソナチネ 他
 
 
 

 「 即興と編曲の妙 Vol.2」

 
セミナー形態:  レクチャー & コンサート
 
講師:    後藤勇一郎(Vn) 共演:杉浦清美(Vn)
 
 
 
SAKURA-Hakanaku(後藤勇一郎)
Chardas(V.Monti・後藤勇一郎編)
シェルブールの雨傘(M. Legrand・後藤勇一郎編)
Disney Medley(後藤勇一郎編)
Glorious Season’s Poetry(後藤勇一郎)
-休憩-
One Note Samba(A.C.Jobim・後藤勇一郎編)
愛の挨拶(E.Elgar・後藤勇一郎編)
Sleet from Snow(後藤勇一郎)
ワルツ組曲「私季」より・Wintry Waltz(後藤勇一郎)
ワルツ組曲「私季」より・Haltz(後藤勇一郎)
 

 若手演奏家シリーズ第4回
「 西川茉利奈+吉武優 Duoコンサート」 

 
 
 
セミナー形態:   コンサート
演奏:    西川茉利奈(Vn) 吉武優(Pf)
 
 
ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第5番へ長調op.24 「春」
シューマン:3つのロマンス op.94
メンデルスゾーン:ヴァイオリンソナタヘ長調 1839
 
 
 
西川茉利奈(ヴァイオリン)
東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、東京藝術大学音楽学部器楽科卒業。同大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
「平成21年度文化庁新進芸術家海外研修員」に選ばれ、ドイツ国立ベルリン芸術大学に留学。平成23年より財団法人ロームミュージックファンデーションより助成を受け、更に研鑽を積む。2012年同大学ディプロマ課程を最高位を得て首席で卒業。
この間に2010年第17回ポーランド・ウッジKiejstut Bacewics国際コンクール第3位(2位なし)入賞。イタリア・キジアーナ音楽院夏期セミナーにてディプロマ名誉賞を受賞。ヨーロッパ各地でオーケストラとの共演、ソロや室内楽で演奏活動を重ねる。
2010/2011年、ドイツ・オペラ・ベルリンオーケストラアカデミー生として研鑽を積む他、ボリス・ベルキン、アナ・チュマチェンコ、シュミエル・アシュケナージ各氏のレッスンを受講。
第49回、第52回全日本学生音楽コンクール第2位。第14回京都芸術祭毎日新聞社賞受賞。第7回「フォーバルスカラシップ・ストラディヴァリウスコンクール」入賞。
平成17年度「平和堂財団芸術奨励賞」受賞。平成24年度「滋賀県次世代文化賞」受賞。
これまでに藝大フィルハーモニア、東京ニューシティ管弦楽団、日本センチュリー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、神戸市室内合奏団等とソリストとして共演する。
各地でソロリサイタルを開催する他、サイトウ・キネン・フェスティバル、東京オペラの森2012「東京・春・音楽祭」等、多数出演。
またクァルテット・メランジェの1stヴァイオリン奏者として、JTが育てるアンサンブルシリーズ、藝大室内楽定期、プロジェクトQ、ラ・フォルジュルネ音楽祭等に出演。
これまでにソロを小栗まち絵、清水高師、玉井菜採、ジェラール・プーレ、マーク・ゴトーニ、室内楽を岡山潔、山崎伸子、山口裕之、アルテミス・クァルテットの各氏に師事。
2012/13年 紀尾井シンフォニエッタ東京シーズンメンバー。
日本演奏連盟主催「新進演奏家リサイタルオーディション」に選ばれ、2014年1月、東京文化会館にて帰国記念ソロリサイタルを開催。
2012年9月、日本に帰国し、ソロ、室内楽を始め、各主要オーケストラの客演コンサートマスター、アシスタントコンサートマスターや首席奏者としても幅広く活躍している。
 
 
吉武 優(ピアノ)
 
1986年福岡県生まれ。東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻を経て、2013年同大学大学院音楽研究科修了。修了時に成績優秀者に送られる藝大クラヴィーア賞受賞。大学院在学中、ティーチングアシスタントも務める。また2010年秋よりロームミュージックファンデーション奨学生としてベルリン芸術大学Diplom課程にても研鑽を積み、2014年最優秀の成績を得て卒業。現在、同大学Konzertexsamen(国家演奏家資格)課程に在籍中。
2002年第56回全日本学生音楽コンクール福岡大会高校の部第3位。2009年第28回飯塚新人音楽コンクール及び第7 回かずさアカデミア音楽コンクール第1位。第13回松方ホール音楽賞奨励賞(第2位)受賞。2011年第18回アルトゥールシュナーベル国際音楽コンクール(ドイツ)奨励賞。2012年第81回日本音楽コンクール入選。2014年第 60 回マリア・カナルス国際音楽コンクール(スペイン)にて審査員満場一致のメダルを受賞。第69回ジュネーヴ国際音楽コンクール(スイス)セミファイナリスト、他多数。
これまでに、ショパンフェスティバルin表参道、マレキアーレコンサート、東京藝術大学表参道フレッシュコンサート、マコン音楽祭(フランス)、ユーロミュージックフェスティバル(ドイツ)、ラインガウ音楽祭(ドイツ)の他、ドイツ、オーストリア、フランス、スイス、スペイン、イタリアにてリサイタル、演奏会に多数出演。また、読売日本交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、芸大フィルハーモニア、ニューフィルハーモニーオーケストラ千葉、九州交響楽団等多数のオーケストラと共演。
また室内楽においては、第35回藝大室内楽定期、JTアートホールアフィニス主催『期待の音大生によるアフタヌーンコンサート』、旧奏楽堂木曜コンサート(室内楽)等に出演。2010年より同級生の仲間、上敷領藍子(Vn)、加藤陽子(Vc)の両氏とParola Trioを結成し活動する他、共演者としても全国的に演奏活動を展開している。
現在、渡邊健二、J.Rouvier、D.Yoffeの各氏に師事。
 
 
 
聴講料:    一般、学生 ともに 1000円
 

 「若手弦楽四重奏団合宿セミナー」

 
 
 
講 師
 
岡山 潔(Vn)東京藝術大学名誉教授
 
服部 芳子(Vn)愛知県立芸術大学名誉教授
 
山口 裕之(Vn)東京音楽大学客員教授、桐朋学園大学講師
 
川崎 和憲(Va)東京藝術大学教授、国立音楽大学客員教授
 
山崎伸子(Vc)桐朋学園大学特任教授
 
河野文昭(Vc)東京藝術大学教授
 
 
 

  • 会場
    • 星野リゾート リゾナーレ  山梨県北杜市小淵沢町129-1 Tel:(0551)36-5111
  • 参加費用
    • 受講料 無料、聴講自由(無料)
    • 宿泊(リゾナーレ)と、交通費は参加者本人の負担
  • 受講申込
    • 受講申込書とグループの最近の演奏(スタンダードな弦楽四重奏曲の第1楽章を、MD/CDのいずれかに録音したもの)をTAMA音楽フォーラムへ送付すること。(既に同じメンバーでセミナーに参加しているグループは申込書のみでよい)
    • 申し込み期間は2015年2月1日〜2月28日(締め切り日)まで
    • 選考結果は3月初旬に書面にて通知します。
    • 約6組の受講カルテットを公募します。
  • 受講曲目
    • 参加グループの希望曲
  • 最優秀賞、奨励賞
    • 当セミナーにおいて、特に優秀な成績を修め、今後の発展が期待されるグループに「リゾナーレ室内楽セミナー最優秀賞」または「奨励賞」(総額100万円)を贈呈します。

 
 
 
 
主催 NPO法人TAMA音楽フォーラム
後援 リゾナーレ  協賛 「基金緑の風」
 

 音楽賞、奨励賞

今回は7つのグループが3月29日から5日間にわたり密度の濃い合宿セミナーを受講、最終日の4月3日にリゾナーレ八ヶ岳TEATRO GASTRONOMO において、修了コンサートを行いました。
 
第25回音楽賞、奨励賞の受賞グループは次ぎの通りです。
 
 
音楽賞
Lemoned Quartet
倉富 亮太    東京藝術大学大学院修士課程在籍
大倉 礼加    東京藝術大学大学院修士課程在籍
戸原 直     東京藝術大学4年
広田 勇樹    東京藝術大学卒業
受講曲 ベートーヴェン 弦楽四重奏曲 ヘ長調 op.59-1
                「ラズモフスキー第1番」
 
奨励賞
Quartet Gioia
石田 紗樹   東京藝術大学大学院修士課程2年
三輪 莉子   東京藝術大学4年
樹神 有紀   東京藝術大学室内楽科修士課程2年
飯島 哲蔵   東京藝術大学4年
受講曲 ハイドン 弦楽四重奏曲 変ロ長調 op.76-4 「日の出」
 
 
 
 

「 ベートーヴェンのピアノ三重奏曲 その3」

 
セミナー形態:  公開レッスン & コンサート
 
講師:    植田 克己 (Pf)
共演:  漆原朝子(Vn)、 河野文昭(Vc)
 
 
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 op.121a「カカドゥ変奏曲」
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 op.70-1「幽霊」
 
 
受講曲: ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 op.70-1「幽霊」
 
 
受講生: 太田 沙耶(Pf.) 東京藝術大学2年
     荒井 優利奈(Vn.) 東京藝術大学3年
     蟹江 慶行(Vc.)  東京藝術大学2年
 
 
第50回セミナー 2015. 5. 23(土)15〜18時
 
「 モーツァルト ヴァイオリンとヴィオラのためのシンフォニア・コンチェルタンテK364」
セミナー形態:  公開レッスン & コンサート
 講師:    今井 信子 (Va)
共演:    大伏 啓太(Pf)
ブラームス:ヴィオラ・ソナタ第2番 変ホ長調
 
 
受講曲: モーツァルト シンフォニア・コンチェルタンテ
 
     セミナーでは弦楽四重奏による伴奏にて公開レッスンを行います。
     弦楽四重奏団は主催者が用意します。
     なお、書類審査の音源はピアノ伴奏による演奏を録音して提出してください。
 
 
受講生:  1. 平光真彌(Vn) 、新谷 歌(Va)
 
2. 西川茉利奈(Vn)+ 深沢麻里(Va)
 

  1. 加藤小百合(Vn)+ 市川友佳子(Va)

 
 
 
応募締切: 5月2日(土)
 
 
 

 「 ライプツィヒ弦楽四重奏団」

 
 
   セミナー形態:  公開レッスン & コンサート
 
   講師:ライプツィヒ弦楽四重奏団
 
ハイドン:弦楽四重奏曲 op.20-5 ヘ短調
J.S.バッハ:フーガの技法 より 第4番 
 
 
受講曲; ラヴェル 弦楽四重奏曲
柴田夏未 Vn (京都市立芸術大学在学中)
小西果林 Vn(京都市立芸術大学在学中)
江川菜緒 Va(京都市立芸術大学在学中)
西村まなみ Vc  (京都市立芸術大学在学中)
 
受講曲; ベートーヴェン 弦楽四重奏曲 ヘ長調 op.18-1
吉井友里 Vn(桐朋学園大学卒業)
佐藤麻衣 Vn(桐朋学園大学卒業)
和田泰平 Va(桐朋学園大学卒業)
平井麻奈美 Vc(桐朋学園大学卒業)
 
 
 
 
 

 「 コーラ・イルゼン、ショパンを弾き、ショパンを語る 」

 
セミナー形態:  レクチャー & コンサート
講師:    コーラ・イルゼン(ピアノ)
 
 
ショパン:12の練習曲 op.10, op.25 他
 
 

「 フォーレのヴァイオリンソナタ第1番 」

セミナー形態:  公開レッスン & コンサート
講師:    野平 一郎(ピアノ)  
共演:  山崎 貴子(ヴァイオリン)
 
フォーレ:ヴァイオリンソナタ第2番
受講曲: フォーレのヴァイオリンソナタ第1番
 
 
 
応募締切: 7月25日(土)
 
 
受講生
 
河西 絢子  東京藝術大学卒業、N響アカデミー在籍
矢野 雄太  東京藝術大学大学院在学中
 
小林 正枝  桐朋学園大学卒業、ベルリン芸術大学に在籍、国家演奏家資格取得
海瀬 京子  東京音楽大学大学院修了、ベルリン芸術大学に在籍、国家演奏家資格取得
 
 
 
 
 
 

「 J.S.Bach 6つのヴァイオリンとピアノのためのソナタ その2 」

 
 
   セミナー形態:  公開レッスン & コンサート
 
   講師:   小林 道夫(ピアノ)  共演:  桐山 建志(ヴァイオリン)
 
F.M. ヴェラチーニ(J.サルモン編曲) : ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ニ短調
 
J.S.バッハ : ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第2番 イ長調 BWV 1015, 
 
J.S.バッハ : ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第5番 ヘ短調 BWV 1018
 
 
 
 
受講曲: J.S.バッハの6つのヴァイオリンとピアノのためのソナタより 第2番BWV1015 または第5番BWV1018
 
 
 
応募締切: 9月5日(土)
 
 
 

「ウィーンの大作曲家たち 」

 
 
   セミナー形態:  レクチャー & コンサート
 
   講師:   ゴットリープ・ヴァリッシュ Gottlieb Wallisch(ピアノ)  
 
モーツァルト ソナタハ長調 K.330
ベートーヴェン: 6つのバガテル op. 126
シューベルト: 4つの即興曲 D.935
 
 
 
 
 

 「ブラームスのクラリネットソナタ 第1番 」

 
 
   セミナー形態:  公開レッスン & コンサート
 
   講師:   四戸 世紀(クラリネット)  共演:  島田彩乃(ピアノ)
ブラームス:クラリネットソナタ第2番
 
 
 
土岐香奈恵(クラリネット) 東京音楽大学卒業、現在同大学院在学中。
 
鈴木菜穂(ピアノ) 東京音楽大学卒業、現在同大学院在学中。
 
受講曲: ブラームスのクラリネットソナタ第1番 ヘ短調 作品120−1
 
 
 

 「古典音楽への旅 」

 
 
   セミナー形態:  レクチャー & コンサート
 
   講師:   古典四重奏団
 
         川原千真 ヴァイオリン
         花崎淳生 ヴァイオリン
         三輪真樹 ヴィオラ
         田崎瑞博 チェロ
 
モーツァルト  弦楽四重奏曲 変ロ長調 K458
ベートーヴェン 弦楽四重奏曲 イ短調 op.132
 
 
 
 
 
 
 

セミナーレポート

ニューイヤーコンサート~高野耀子ピアノリサイタル Vol.2

2015年1月12日(日)  スタジオ・コンチェルティーノ 
講師 高野 耀子(ピアニスト)

 ことしのTAMA音楽フォーラムの幕開けは高野耀子(こうの・ようこ)さん、昨年2月2日、ここで大きな感銘を残して以来の2回目の登場である。83歳とは思えぬ若々しさの高野さん、「レクチャー」でなにを話そうか困ったと笑いながら、楽器と演奏者の関係ということから話が始まった。4年間居候をしたミケランジェリは楽器にうるさいと思われているが、普段はアップライトのピアノを弾いていた。音はイマジネーションの問題であって、考えれば出るものだと彼は言っていた。自分が想像していないと思った音は絶対にでないというわけです。わたしは40歳になるまで自分のピアノを持っていなかった。転々としていたから、大体アップライトの貸ピアノで済ましていた。たとえば、レンブラントの名画の筆のタッチのように、ピアノの鍵盤も叩くものではない、撫でるものなのです。さっきから話すのに胸がドキドキしています、と話を切り上げてピアノに向かった。

 最初はモーツァルトのソナタニ長調K311が3楽章通して演奏された。続いて、モーツァルトのロンド イ短調K511。明るく晴れやかなニ長調の後だけにイ短調ロンドはモーツァルトの心の陰りを示した。この陽と陰の対照が見事であった。
 次のショパンの華麗なる変奏曲 変ロ長調 作品12について高野さんは「ショパンの初期の作品で、当時はやった唄を主題にして、そのテーマのまわりにいろいろのものが来るという曲です」と短く語ってすぐ演奏に入った。ここでは、ピアノから実に様々な音色が響き出すさまに満席の聴衆が聞き入った。

 休憩のあとはフランス音楽である。まずフォーレの3つのノクターン作品33の3曲、つまり、第1番変ホ長調、第2番ロ長調、第3番変イ長調が演奏された。これに先立ち、高野さんは語った。「フォーレは本当に演奏が難しいのです。ミケランジェリはフォーレが嫌いだったようですが、実は彼は初見がきかない人なのです。意外でしょう。それが理由だと私は少し勘ぐっています。ともかくもフォーレは特別です。今日弾く第3番も数ヶ月取り組みました。そして、それから弾くと本当にすごい喜びが湧き出るのです」。高野さんの演奏したフォーレはノクターンという夜のぼんやりした情感というよりフランス的な明晰さで音が粒立っていた。

 つぎはラヴェルのソナティネで、高野さんは説明なく、3つの楽章を弾いた。そして、同じくラヴェルの「水の戯れ」では、演奏前に聴衆に語りかけた。「ラヴェルの先生はフォーレです。まだパリ音楽院の学生の時にできた作品です。ラヴェルと一緒に勉強していたエネスコの回想によると、ある日、フォーレのクラスでのこと、先生のフォーレがラヴェル君、『水の戯れ』を弾き給え、と命じて、ラヴェルがそれを弾き終えると、諸君、今日のレッスンはこれで終わり、といったそうです。この曲は『水の流れにくすぐられて笑っている河の神』(アンリ・ド・レニエの詩)がエピグラフです。ベルサイユ宮殿の泉に想を得たといいますから、自然の泉ではないですね。ラヴェルの楽譜は複雑で、指が交錯するので交通渋滞のようになりがちです」といいながら、演奏を始めた。ラヴェルの青春の記念碑と言える名品である。

 以上でプログラムは終わり、熱心な拍手に答えてのアンコールはショパンのノクターン第4番 ヘ長調作品15の1。さらに、もう一つJ.イベールの「小さな白いロバ」(1922)という曲が演奏された。高野さんが7歳の時、発表会で弾いた思い出の曲だから、これは暗譜で弾けるという。ロンド形式のABA+コーダの曲だが、7歳の時にはABAのあとにBに戻ってしまったが、そのあとは無事に終わったと笑いながら、この可愛い小品を慈しむように奏でた。

 この日、TAMA音楽フォーラムの岡山代表から、高野さんが今年7月に北海道でリサイタルを開くとの報告があった。今年7月、札幌の六花亭本店7階に「ふきのとうホール」という室内楽ホール誕生する(ホールの音楽監督に岡山潔氏が就任)。このオープンを記念して7月5日から31日まで25回にわたる室内楽コンサートが開かれる。高野さんは7月27日(月)に登場して、この日のプログラムに近い曲を弾く予定という。

 最後に高野耀子さんの経歴をごく簡単に記しておく。

 1931年パリに生まれる。両親は画家。4歳でピアノを始め、7歳からマグダ・タリアフェロ女史に師事。このあと日本とフランスを行き来して1950年代にドイツでハンス・リヒター=ハーザーに師事。翌1954年、イタリアのヴィオッティ国際コンクールで優勝。それからの10年間、世界各地で多忙な演奏活動を展開する。自分の演奏に疑問を抱き、旅の連続の生活に嫌気がさして、1965年演奏活動を休止し、4年あまりミケランジェリに弟子入り。1979年から東京に住み、時々演奏し、小学生から超熟年の人々に教えながら、ゆったりとした日々を過ごしているとは本人の言である。

(記録者=西谷晋)




即興と編曲の妙 vol.2

2015年2月14日(日)  スタジオ・コンチェルティーノ 
講師 後藤 勇一郎(ヴァイオリニスト、作曲家、編曲家)
共演: 杉浦 清美(ヴァイオリニスト)





 楽器の花形ヴァイオリンは16世紀の半ばに生まれたとされ、当初から完成度が高かったという。北イタリアのアマティやグァルネリ一族、ストラデヴァリといった製作者たちが18世紀の中ごろまでに残した名器は、未だにこの楽器の最高峰であり続けている。タルティーニ(16921770年)、パガニーニ(17821840年)、サラサーテ(18441908年)らの伝説的名演奏家が出現、彼らはそれぞれ、「悪魔のトリル」「24の奇想曲」「ツィゴイネルワイゼン」など、俗に言う超絶技巧を要するヴァイオリンの名曲を残している。その一方、技術革新の結果、弦や弓には改良が加えられ、演奏技法も大きく進歩したので、現代の第一線ヴァイオリニストが今から数百年前のヨーロッパにタイムスリップして人びとに演奏を聴かせたら、「魔術師」とか、「悪魔の化身」とか評されるかもしれない。つまり、ヴァイオリンは楽器も、曲とその演奏も、きわめて高い水準に達していると言えるだろう。

 そんな現状に甘んじることなく、ヴァイオリンの可能性を現代の視点から追求し続けているのが、本日の講師、後藤勇一郎氏(ヴァイオリニスト、作曲家、編曲家)だ。過去の名曲を演奏するだけでなく、自ら作曲し、音楽という大きなジャンルのなかから曲を選んで編曲、演奏する。20138月の第29回セミナー「後藤勇一郎の私季―ジャンルの垣根を越えた表現力と即興、編曲の妙」に続く2回目は「即興と編曲の妙Vol.2」と題して10曲を演奏し、講演した。

 実は岡山潔TAMA音楽フォーラム代表や後藤さん自身が明らかにした通り、ピアノを受け持つはずだった小池ちとせさんが不慮の事故に遭って左肩を骨折、しばらくは演奏ができないため、急きょセミナーの中身を入れ替え、後藤さんの東京藝術大学時代の同級生で夫人のヴァイオリニスト、杉浦清美さんとのデュオを柱にすることになった。小池さんは聴講者席で聴き手に回った。

 セミナー前半はまず、後藤さん作曲の独奏曲「SAKURA-Hakanaku」の演奏で始まり、自己紹介のあと、イタリアの作曲家モンティ(18681922年)の曲を後藤さんが編曲したハンガリー風の「Chardas(チャールダーシュ)」、1964年に公開されたフランスのミュージカル映画「シェルブールの雨傘」の主題曲(ルグラン曲・後藤編)、ディズニー映画の主題曲メドレー(後藤編)と続いた。いずれも後藤、杉浦の息の合った2重奏で、ピッチカートの競演(協演)など、とても素晴らしい。「(ヴァイオリンの)デュオは音域が狭い、つまり低音が出ないので支えがないが、究極のアンサンブルだと思う」と後藤さん。

 前半の最後は、ヴァイオリンとピアノ伴奏で作曲し、盟友の村山晋一郎氏(ロサンゼルス在住)にアレンジを依頼した「Glorious Seasons Poetry」で、ドラムスに村山氏本人のヴォーカルも加わり、ビートが効いた「輝かしい季節の詩」に仕上がった(セミナーではヴァイオリン以外は録音)。こんな「協働」も楽しい。

 汗っかきを自称する後藤さん、後半は上着を脱ぎ、新しいシャツに着がえて登場した。弾くのは10年ぶりというブラジルの作曲家ジョビン(19271994年)の「One Note Samba(後藤編)を独奏。次いでイギリスの作曲家エルガー(18571934年)の「愛の挨拶」をとりあげた。婚約者(後のアリス夫人)のために作曲したとされ、もともとヴァイオリンとピアノの曲だったのを後藤さんが編曲、東京藝大時代の先生である岡山代表が上のパートを、後藤さんが下のパートを受け持った。きっと「師弟愛」的に編曲したのだろう。次いで、岡山夫人の服部芳子さんと杉浦さんが加わり、後藤さんがヴィオラに持ち替えてヴァイオリン3、ヴィオラ1の珍しい四重奏。目を閉じると、普通の弦楽四重奏のようにも聴こえるところがあって面白い。会場はおおいに盛り上がった。

 終盤の3曲はいずれも後藤さんの曲で、2匹の愛犬の名「みぞれ」と「ゆき」に季節感を重ね合わせた「Sleet from Snow」、ワルツ組曲「私季」より「Wintry Waltz」、そして同「Haltz」。順に春へ向かう感じ、冬の寒さと寂しさ、楽しさなどを込めている。Haltzとは、どこか外国の地名かと思ったが、「春+ワルツ」ということらしい。

 今日のセミナーで後藤さんが披露した10曲は実に幅が広く、自作のほか、いわゆるクラシックや映画音楽、サンバなど多彩だ。バッハとか、モーツァルト、ベートーヴェン、ブルックナーらの大作曲家やアメリカのジャズを持ち出すまでもなく、即興演奏は音楽の本源だろうし、一方で編曲は既存の曲の解釈だったり、新しい可能性の追及だったりするのではないか。後藤さんにはクラシックという「岩盤」が備わっているので、ポピュラーなジャンルに手を広げても、その質感が伴っているように感じる。また、昨年11月には神奈川県伊勢原市の大山阿夫利神社で「奉納演奏会」を開くなど、自由な発想、行動力を併せ持っている。ありきたりの言い方だが、ある高い次元で新旧、硬軟が共存、共鳴あるいは衝突するなかで新しい何かが生まれる――後藤さんのさらなる挑戦には、そんな期待がかかる。

なお、最近発売された後藤さんのCD2弾「私季II-Affinities-」(全11曲)には、「SAKURA-Hakanaku」をはじめ、セミナーで演奏した自作の5曲も収録されている。
(走尾 正敬)

ベートーヴェンのピアノ三重奏曲 その3

講師:植田克己(ピアニスト)

日時:2015年4月26日(日)15時スタジオ・コンチェルティーノ


 昨年から続いている植田克己東京芸術大学教授によるベートーヴェンのピアノ三重奏シリーズの3回目である。この日は第5番作品70の1「幽霊」ニ長調の公開レッスンがあり、その後のコンサートでは、ベートーヴェンの「カカドゥ変奏曲」変ロ長調 作品121aと「幽霊」をピアノ植田克己、ヴァイオリン漆原朝子、チェロ河野文昭が演奏した。


 公開レッスンは太田沙耶(ピアノ)、新井優利奈(ヴァイオリン)、蟹江慶行(チェロ)が参加した。3人とも東京芸術大学の3年生である。3人はまず第1楽章を通して演奏した。そして第2楽章も続けて弾いた。それから第1楽章の丹念な指導が始まった。その全容はカバーできないが、印象に残った点を書き留める。
*冒頭部分。活気に満ちていいのだが、突っ張った感じになっており、もっとリズム感がほしい。畳みかけすぎないほうがいいのではないか。6小節からのピアノはpで、そうすれば、チェロのドルチェが効いてくる。ffのまえのf(21小節からの)は少し控えめに、張り切りすぎないで。
*36小節からのチェロは主導権を持つのだからそのように弾いてほしい。51小節からはピアノが中心になる。そして提示部最後の70小節からの付点四分音符の長さは3人で相談してほしい。また、そこのベートーヴェンには珍しいpppはもっとpppでもいいのでは。
*78小節のppから82小節のffへの突然の変化はいかにもべートーヴェンらしく、
 決然とした表現がほしい。
*転調のときの注意だが、変わったということを明示するように。
*(チェロの蟹江さんが譜面に注意を書き込もうとするのを止めて)書かないで、
 頭で覚えておいてほしい。
*第1楽章全体について、ピアノの音の幅の中にヴァイオリンとチェロがいることを頭に置いていてほしい。
*展開部の終わりのppでの3人の掛け合いのところ、調性感をよく確かめながら再現部に入るように。

 ここで植田さんは同席していた弦楽奏者にアドヴァイスを求めた。チェロの河野さん「いきなりのffは第5交響曲や『皇帝』などこの時期のベートーヴェンならではのものだ。音型は上昇し下降するが、いわば下降しながらも上昇している。だから下降でもエネルギーを失わないように。この短い楽章の中に内容が詰まっている。この詰まっているのがほしい」またチェロ奏者に対して、「展開部で調性が変わるとき、音楽も顔も決して同じ表情で弾かないように。曲想が変わっているのだから」との注意があった。ヴァイオリンの漆原さんは「美しいだけが表現だとは言えない。いろいろな表情をもって音楽表現してほしい」と忠告した。


 レッスンは「幽霊」の第2楽章に移った。ここでの要点は以下の通り。
 *ここの出だしは本当に難しい。テンポをどうするかだが、9小節からのチェロのカンタービレのテンポを想定して最初を引き始めるのも一つの方法だ。テンポは16分音符でとるのではなく2拍子でとるべきなのだが、ゆっくりしたラルゴなのでとても難しい。
 *14小節からのffで3人の気持ちが一つになっていない。ピアノはsfで二つくさびを打つつもりで。そこでのディミヌエンドにも気を付けて。
 *18小節からのピアノの6連音をヴァイオリンとチェロはがんばってよく聞いて演奏してほしい。ピアノもここは実に大変だ。全体としても、こんなことまでさせるのかと思うほど、ベートーヴェンのピアノパートは難しい。


 第2楽章についてのチェロの河野さんの注意:出だしの音型にスラーがかかっているのは意味がある。スラーの意味をよく考えて表情を付けたい。
ヴァイオリンの漆原さんからの注意:スラーと弦の弓使いについて、スラーで弓を返さないほうがいい場合があるが、そうでないときもある。スラーがついているときの弓の返しをよく考えてほしい。


15分の休憩の後、コンサートに移り、植田、漆原、河野の3人が「カカドゥ変奏曲」と「幽霊」を演奏した。その見事な演奏は、ベートーヴェンの素晴らしさ、深さを聴衆に示した。
岡山潔TAMAフォーラム代表はあとで「実に説得力ある演奏」と評した。記録者も第2楽章の、特に後半部の表現に圧倒された。
 最後に短い挨拶をした植田さんは「ピアノ三重奏という分野はベートーヴェンで全く変わってしまった。特にこの三重奏曲で今日そう感じた」と語った。(記録者:西谷晋)



ライプツィヒ弦楽四重奏団

講師:ライプツィヒ弦楽四重奏団

日時:2015年6月7日(日)15時スタジオ・コンチェルティーノ



 2015年6月7日(日)午後3時からスタジオ・コンツェルティーノでTAMA音楽フォーラムの第51回室内楽セミナー(公開レッスン&コンサート)が開かれた。講師はおなじみのライプツィヒ弦楽四重奏団である。はじめに岡山潔音楽フォーラム代表から、第1ヴァイオリンのシュテファン・アルツベルガー氏が都合で来日できず、代わりに17年にわたりピーターセンSQを率いた経験のあるコンラート・ムック氏が代演するとの報告の後、本日のために選ばれた若手四重奏団二組が紹介された。A組はいずれも桐朋学園大学卒業生の吉井友里(Vn)、佐藤麻衣(Vn)、和田泰平(Va)、平井麻奈美(Vc)さんで、ベートーヴェンの四重奏曲作品18-1ヘ長調を受講した。B組は京都市立芸術大学および大学院の学生の柴田夏未(Vn)、小西果林(Vn)、江川菜緒(Va)、西村まなみ(Vc)さんで、ラヴェルの四重奏曲ヘ長調を受講した。

 レッスンはA組から始まったが、岡山代表の適切な通訳と要約により、興味深いレッスンとなった。まず、A組は第1楽章を通して演奏した。講師陣からの主な指摘は次の通り。
* テンポ感が外れている気がする。この曲はアレグロコンブリオで4分の3拍子、「英雄交響曲」の第1楽章の出だしに似ている。そのテンポ感がほしい。第2小節と第4小節の1拍目が大切だ。それによりメリハリがつく。
* 後で何度も出るこの出だしのモティーフはとても大切だ。2+2+4小節のフレーズであり、そのように弾くこと。音楽が前に向かって流れていくように。冒頭はピアノで始まる。手探りの様子を表現するように。
* 22小節からの4回のスフォルツァンドは次第に増幅して28小節のフォルテに至るように。探していたものが見つかった喜びというように。スラーがかかっていても、はっきりと発音するように。29小節からのヴィオラはいかにも伴奏しているという感じだ。音を刻むだけでなく、推進力がほしい。音は大きくなく、もっと明るく。
* (30小節から34小節にかけて)第1ヴァイオリンも手さぐりしながら前に進んでいくように。問いかけなのだから、そのように。この2回の問いかけは同じ表現でなく2回目は変化がほしい。

第2楽章では、次のような注意があった。
* アダージオではあるが、そのテンポは遅すぎて、メロディーラインが聞こえてこない。ゆったりした流れの中で第1ヴァイオリンは慌てずゆっくり情感を込めて弾くように。死を思わせる音楽だから、大きな流れの中で前に向かいたい。
* (第1ヴァイオリンに対して)ビブラートに問題がある。曲想に合わせたビブラートを心掛けたい。少し無頓着な気がする。
* ここは悲しみの中にいろいろな悩み、苦しみの入った歌なのだ。感情を押し殺すように表現すること。

ここで時間切れ、休憩をはさみB組のレッスンはラヴェルの四重奏曲第1楽章全部を演奏して始まった。ここでの主な指導とアドヴァイスのあらましは以下の通り。
* 形としては整っていたが、この曲にはいろいろな奏法が求められている。もっと多彩な表現がほしい。
* 最終部のラン(遅く)のところ、奏者によってビブラートをかけていたりかけていなかったり。もっと統一感を出す工夫がほしい。
* (第1ヴァイオリンに)それぞれのフレーズの終わりに余韻が乏しいので、音楽が流れない。フレーズを引き継いでいく工夫が必要だ。もっとビブラートをかけてつないでいくとよい。
* 5小節目で色合いが変わらないと。ビブラートのスピードを変えることで色が変わる。冒頭のテーマは小節線を忘れさせるような大きなフレーズで始めるように。フレーズの終わりを丁寧に弾いてから色合いを変えて次に進むように。しかも次につながっていくように。
* この音楽には小さな変化がちりばめられているのだが、それが表現されていない。当時のフランス芸術、音楽もそうだが、花の色と香りというニュアンスがある。それが聞こえてこない。ヴィオラが単調になりがちだ。もっと幅広い変化をつけるように。ディミヌエンドとあっても音を弱めるだけではだめで、ニュアンスのある変化がほしい。
* (チェロに)「今度はこんな世界なんだよ」というような表現を。波が押したり引いたりするような演奏を。
* (第1ヴァイオリンに)第2主題はもっと特別の世界に入るのだという気持ちで。当たり前に弾かずに。
* (繰り返し演奏した後)だんだんニュアンスが出てきたが、それでももっと小節線を忘れて演奏してほしい。風がそよぐように。その風も自然界同様、いつも同じ風ではなく。
* 展開部の終わりの部分のfffは、音響的に四重奏なので限界があるわけだから、ゆったりと大きさを出すとよい。
* 全体として古典的な演奏スタイルになっていて、正確な拍を心掛けているが、もっと自由でいい。フランスの婦人は香水をつけるが、自分のためだけでなく、人にも嗅いでほしいのだ。フランス夫人の自己表現を思い起こして、ヴィオラも周りを気にせず「ここは自分よ」と演奏したらいい。

以上でレッスンは終わり、休憩の後、コンサートに移った。ライプツィヒSQのメンバ
ーは代役ムック氏のほかはこれまで通り、第二ヴァイオリン、ティルマン・ビューニング氏、ヴィオラ、イーヴォ・バウアー氏、チェロ、マティアス・モースドルフ氏。
プログラムはまず、ハイドンの弦楽四重奏曲作品1-4ト長調。続いてJ.S.バッハの「フーガの技法」から第1~第4曲。この練達の四重奏団はハイドンをいかにも楽しげにはつらつと演奏したのが印象深かった。第2楽章で第2ヴァイオリンがスタジオの2階に上がって、後の3人と対話したのも聴衆を喜ばせた。続くバッハでは、4つの弦楽器が質朴で厳粛な世界を描き出した。(記録者:西谷晋)





コーラ・イルゼン、ショパンを弾き、ショパンを語る

講師:コーラ・イルゼン

日時:2015年7月12日(日)15時スタジオ・コンチェルティーノ

TAMA音楽フォーラム第52回室内楽セミナー
レクチャー&コンサート
「コーラ・イルゼン、ショパンを弾き、ショパンを語る」

講師: コーラ・イルゼン
2015
712日(日)1518時 スタジオ・コンチェルティーノ


 この日は梅雨の晴れ間の暑い一日だった。療養中の岡山潔TAMA音楽フォーラム代表(理事長)にかわって服部芳子副理事長が司会役になり、本日の講師であるドイツ出身の女流ピアニスト、コーラ・イルゼン(Cora Irzen)先生を紹介した。イルゼン先生の登場は201210月の第19回セミナー「リストのピアノ音楽の魅力」に次いで2回目。今回取り上げたのは、ポーランドに生まれ、後半生をパリで過したピアノの巨匠でロマン派の作曲家フレデリック・ショパン(Frédéric François Chopin 181049年)の練習曲(エチュード)。ショパンは「ピアノの詩人」と呼ばれただけあって、練習曲といっても演奏には高度な技術が必要とされ、同時に高い芸術性を備えた傑作だ。「ピアノの魔術師」フランツ・リストの作品とは違った意味で、ピアノ音楽の高い峰のひとつといえるだろう。

 今回のレクチャー&コンサートは、イルゼン先生が、オーストリア・ハンガリー帝国領のプラハ(現チェコ)に生まれたユダヤ系の女流ピアニストで、ナチのホロコーストから生還して110歳の長寿を全うしたアリス・ヘルツ=ゾマー(Alice Herz-Sommer 19032014年)の一生を振り返りながら、ヘルツ=ゾマーが生涯をかけて取り組んだショパンの練習曲を演奏する形をとった(実際には、先生が彼女の一生を9つの段落に分けて書き上げたドイツ語のエッセイを、ドイツ文学者の田辺秀樹氏が日本語に翻訳して段落ごとに朗読し、それぞれの段落に割り振った練習曲を先生が演奏した)。
 
 次に、各段落の概要と先生が演奏した曲目を順に紹介する。

<前  半>
アリス・ヘルツ=ゾマーは昨年2月、110歳の生涯を閉じた。生前、彼女は「私は人間が好きです。ショパンのエチュード24曲は私の『避難所』となった。テレジエンシュタットの強制収容所で、あらゆるエチュードを演奏した・・・」などと語っていた。
12の練習曲作品10より第1番ハ長調、第3番ホ長調「別れの曲」

 アリス・ヘルツは1903年、プラハで生まれた。5歳からピアノを学び、ヴァイオリンを学んだ兄パウルとともに、しばしば家庭コンサートを開いた。
◇同上第4番嬰ハ短調

 16歳のアリスは一晩中ピアノの練習をし、曲をマスターすることはからだと魂の一部になると思うようになる。リストの弟子のひとりに師事して腕をあげたアリスにとって、両親のピアノではもはや不十分だった。そこで、新しいピアノを9か月で手に入れるため、生徒にピアノを教え、人気のピアノ教師になった。
◇同上第5番変ト長調「黒鍵」、第6番変ホ短調

 アリス21歳。女友達のひとりが死んだことを知り、2週間、倒れる。「世間体で人を評価してはいけない」と言うビジネスマンでアマチュア・ヴァイオリニスト、レオポルト・ゾマーの手紙を読んで感激、1931年に求婚し、結婚する。ピアニスト、ピアノ教師としてお金を稼いだ。6年後、ひとり息子シュテファンが生まれる。
◇同上第8番ヘ長調、第9番へ短調

 第2次大戦が始まり、別れの時がきた。友人、知人との別れ、自由との別れ。夫もユダヤ人だったため職を失う。彼女の姉妹はパレスチナに亡命したが、当人は母を残しては行けなかった。そしてテレジエンシュタットの強制収容所へ送られる。その時、内なる声が「24のエチュードを練習しなさい」と告げた。彼女は再び力を与えられた。
◇同上第12番「革命」

<後  半>
 夫も同じ収容所へ送られた。子供に必要なのは忍耐、優しさ、そして愛情。彼女はつとめて笑うようにしたりして、シュテファンを守り続けた。「いちばん辛かったのは、子供がおなかを空かせて泣いているのに何もしてあげられなかったこと」「音楽は生きるための食べ物、命でした。諦めてはいけない・・・」
 収容所内の演奏会でエチュードを弾いた。感銘を受けた収容所長が彼女に、子供ともども他の収容所には移さないと約束した。だが、夫はアウシュヴィッツ、そしてダッハウへと送られて衰弱し、チフスで死亡。
彼女は19456月中旬、解放されてプラハに戻った。ゼロからの再出発。ピアノの生徒を増やした。ラジオ放送で「希望を持つことを諦めなかった。私は生きている。私には音楽がある。誰もこれを奪うことはできない」と語っている。
12の練習曲作品25より第1番変イ長調「エオリアンハープ」、第2番へ短調、第3番イ短調

 毎日がひとつの奇蹟なのです――1949年、45歳のアリス、息子のラファエル(シュテファンから改名)とともにイスラエルに移住して姉妹と再会、新たな人生に踏み出す。イスラエル音楽院の教授になり、その後37年間でおよそ700人の生徒にピアノを教える。
◇同上第5番ホ短調、第6番嬰ト短調、第7番嬰ハ短調

 ラファエルはチェリストになり、ロンドン音楽大学教授に。アリス、83歳でロンドンに移住。イスラエルとの別れ。
 こうと決めたら前へ進む以外にない人だった。ロンドンでは毎日歩き、1時間プールで水泳、3時間ピアノの練習。「同じ曲を100年間練習できて、その都度新しい意味を発見する・・・。芸術家の仕事に終わりはありません。人生も同じで、言ってみれば人生を練習しているのです」。104歳の時、週に3日、聴講のため、大学に通ったという。
◇同上第9番変ト長調「蝶々」、練習曲(op.posth.)第1番へ短調

 98歳になる13日前に、息子ラファエルが演奏旅行中に亡くなる。64歳だった。「ラファエルは地獄の真っただ中でも、エデンの国をつくってくれた」と述懐している。
 イルゼン先生は「アリスは私の人生を変えた女性です。心から敬愛し、日々、お手本にしています」と結んだ。
◇練習曲(op.posth.)第2番変イ長調、12の練習曲作品25より第12番ハ短調
 
×   ×   ×   ×   ×   ×   ×

 ショパンはロマンチックで華麗な楽曲だけを残したわけでなない。バッハやモーツァルトを深く研究し、ワルシャワからパリに移る前にウィーンなどを経ていることや、ベルリオーズ、リスト、メンデルスゾーンらとの交流があったことからも分かるように、音楽の本流を十分に把握していたと考えられる。求道的といった感じもある一連の練習曲はその表れだろうか。

人生は美しい――アリス・ヘルツ=ゾマーは103歳の200312月、英紙ガーディアンのインタビューにこたえ、こう語った。同紙は彼女がホロコーストから生き延びた最高齢者と紹介したうえで、楽観主義と(自己)規律が延命を助けた、と書いている。歴史に翻弄されたピアニストとショパンの練習曲との結びつきには奥深い何かを感じる。イルゼン先生の演奏は悲劇的な背景、意志と理性の勝利とも言うべきものをショパンの曲に重ね合わせているかのようだった。日本で暮らす私たちひとりひとりにとって、戦後70年の節目にふさわしいセミナーだったと思う。なお、アンコールでは先生がアルバム発表を準備しているフランスの作曲家マリー・ジャエル(18461925年)の作品のなかから1曲を披露した。(走尾 正敬)



フォーレのヴァイオリンソナタ第1

講師:野平一郎

日時:2015年8月9日(日)15時スタジオ・コンチェルティーノ

   
 今日のセミナーの講師は著名なピアニストで作曲家でもある野平一郎氏。当セミナーには 5回目の登場である。猛暑のさなかにもかかわらず、会場は満席となった。セミナーのための作品はG・フォーレ(1845~1924)のヴァイオリン・ソナタ作品13イ長調(187576作曲)。この第1、第2楽章をヴァイオリン河西絢子(東京芸術大卒、N響アカデミー在籍)、ピアノ矢野雄太(東京芸術大大学院修士課程在籍)が、第3、第4楽章をヴァイオリン小林正枝(桐朋学園大卒、ベルリン芸術大学留学)、ピアノ海瀬京子(東京音楽大大学院卒、ベルリン芸術大学留学)の4人の受講生がそれぞれ野平先生の指導を受けた。
最初の河西・矢野組が第1、第2楽章を通して演奏してセミナーは始まった。その指導は熱意に満ち、綿密であった。主な点は以下の通り。
*第1楽章冒頭のピアノの出だしについて、pで始まるように。また、ピアノによるテーマと、あとから出てくるヴァイオリンでのテーマの、テンポの一貫性に気をつけること。ヴァイオリンの部分を先ず演奏して、それから冒頭を弾く試みがおこなわれた。
*フォーレの音楽には自然な流れが大切だ。ピアノはもちろん、ヴァイオリンももっと水が流れるように弾いてほしい。
*フォーレがパリ音楽院の院長になった時、気に入らない先生を全部切ってしまった。このおとなしい人が、と周囲の人たちが皆驚いたという。フォーレはそのように、はっきりとした自分の音楽的信念を持ち、それを貫いた人であった。
だから、この出だしももっと音楽的に深い表現が必要だ。彼の音楽の内面性をもっと表現して欲しい。
*ピアノのオクターブ移行の表現に気を付けて。
*展開部のドルチェ(170小節から)のピアノはもっと柔らかく。(183小節からの)ヴァイオリンのmfのところはもっと微妙なニュアンスを。途中の推移部では音色がどんどん変わっていくべきだ。音色には細心の注意を払うこと。
*(226小節のdim表示について)ここではディミヌエンドを早くし過ぎないように。これはフォーレを演奏するときの鉄則だ。流れの中での長いディミヌエンドの重要性を考えて欲しい。
*(267小節からの)再現部ではもっと会話が必要。時には主役が交代することも。
*ピアノのオクターブがもっとレガートで滑らかに奏されるとよいのだが。
*第二楽章。8分の9拍子のリズムの在り方を考え、感じてほしい。内面的な音楽だから。
18小節目のピアノはそれまでと表現を変えるように。心を込めて。大切なところだ。22小節のピアノももっと歌うように。このあたり、二人とももっと対話してほしい。そして、単調にならないように注意を。
 ここで時間切れとなり、短い休憩の後、コンビが交代して小林・海瀬組がソナタの第3、第4楽章を通して演奏した。
*第3楽章スケルツオの第3小節の2拍目はアクセントをはっきりつけるように。焦らないで。走りすぎないように。客観的に。
*(133小節からの)中間部はちょっと硬い。また横流れになっている。ヴァイオリンは大きな旋律の流れとして弾いたほうがよい。ピアノパートにはすごく長いスラーがついている。ここは流れるようにヴァイオリンに合わせていくように。とにかく中間部にはもっと流れがほしい。
*第4楽章。冒頭のピアノはもっとペースメーカーの役割を果たすように。ピアノはどれも弱拍にあるので、落ちないで、上方に向かうように表現するといい。
*テンポはしっかりしていてほしいが、硬くならないで。硬い印象を与えないように。
21小節からのピアノはもっと流れるように。
55小節からのピアノパートの低音部がよく聞こえない。もっとバスを出すように。
*(109小節からの)ヴァイオリンの旋律はテノール的なのだから、音色の変化が必要。
*(156小節からの)ピアノはもっと流れるように。
*(253小節からの)フォルティッシモのパッセージは一本調子で単調にならないように。ピアノは決してがなり立てないように。これはラフマニノフではないのだから。終わりの部分は大いに盛り上がって演奏されることが多いが、決してオーバーヒートしないように。(節度と格調を保って、情熱と感情の高まりを表現すべき、という意味であろう。)

 以上でセミナーは終わり、休憩の後、講師たちによるコンサートに入った。
曲はおなじフォーレのヴァイオリン・ソナタ第2番ホ短調 作品1081916年~17年作曲)で、ピアノは講師の野平一郎、ヴァイオリンは山崎貴子さん。山崎さんは東京芸術大学大学院を終了後、スイス、ロンドンで研鑽を積み、ジェラール・ジャリ、ジョルジュ・パウクなどの名匠の薫陶を受けた。現在は東京芸術大の講師、アーニマ四重奏団の第一ヴァイオリン奏者、紀尾井シンフォニエッタ東京のメンバーとして活躍している。
 演奏に際し、野平氏は、ソナタ第1番はフォーレのいわば出世作、ドイツから注目され、楽譜も出て、それでフランスでも評価された。第2番は晩年の名作で、私はどちらかというと2番のほうが深い内容を持っているように思うと述べた。
 ソナタの3つの楽章が対話するように見事に演奏された。フランスのエスプリをたたえながらも、山崎さんのヴァイオリンは芯の強い表現を貫いていた。アンコールとしてフォーレの「アンダンテ」がやさしく夏の夕べの雰囲気を醸し出した。(記録:西谷晋)






J.S.Bach 6つのヴァイオリンとピアノのためのソナタ その2

講師:小林道夫

日時:2015年9月19日(土)15時スタジオ・コンチェルティーノ



 小林道夫先生を迎えての昨年9月以来一年ぶり、第2回目のセミナー。今ではチェンバロで弾くのが普通だが、バロック演奏全般を学ぶ普遍性にかんがみて、あえてヴァイオリンとピアノでのセミナーとする、という趣旨の岡山潔TAMA音楽フォーラム代表のあいさつでセミナーが始まった。この日のレッスン曲はソナタ第2番イ長調BWV1015で、受講生はヴァイオリンが東京芸大卒業後、ハンガリーのリスト音楽院大学院修士課程修了の花岡沙季さん、ピアノが東京芸大卒業後、ショパン音楽大学修士課程修了後、東京芸大大学院在学中の里見有香さん。まず二人が全4楽章を演奏してから、小林先生の綿密な指導が始まった。そのなかの主な点は以下の通り。
 (第1楽章)
*二人でのびのびと健康的で気持ちのいい演奏をされたが、バッハの楽曲はとても緻密に構成されていて、それを表現するのはなかなか大変だ。二人とも冒頭の「ドルチェ」を見落としたね。また、曲の色合いとか気持ちで勝負しないで、それぞれのパートの構造をよく見極めて演奏してほしい。イ長調で始まって、短調に陰り曇っていく様子をさぐりながら弾いてほしい。トリルは上からと下からの両方をやっていたが、上からでよい。
*音符の長さ、細かさによって、音の太さ細さを工夫するように。32分音符が太ってしまうのはよくない。冒頭のヴァイオリンのフレーズは第1小節から第3小節にかけてゆっくりと上昇するように表現する。ふたりとも自分のパートのみで手一杯になっている。
*楽章ごとの対比も考えたい。第1楽章で頑張りすぎると第2楽章がへこむことになりまねない。
*最初の小節の4拍目の16分音符を二人とも十分注意するように。まだ色々な事が起こっていない場所なので、さり気なく演奏するとよい。
*第1楽章はイ長調で始まりイ長調で終わる。その間に上り坂とか下りとか、様々な出来事がある。バッハをやるときはそんなことをよく考えて演奏してほしい。
 (第2楽章)
*小節の裏ということを考えてほしい。テンションが上がりすぎている。第2小節の2,3拍目は強調せず柔らかく。6小節目からのピアノはここをリズムとして弾いているが、線としてとらえたほうがいい。
*30小節からのヴァイオリンはもっと自在に遊んでほしい。
*ピアノでは必ずしもアルペジオにする必要のないところがある。チェンバロは金属弦を爪で引っ掛けるので、前打音を弾く際にアルペジオを使うことが多いが、ハンマーでたたくピアノはそれとは違う場合がある。
*ふつうバッハのソナタの速い楽章である第2楽章は多少理屈っぽく、そして第4楽章プレストは追い出しにかかるという趣がある。このプレストは2拍子が感じられるといい。つまり、速くなくてもいい。
 (第3楽章)
*とても繊細な音楽なのだから、二人がぴったりと寄り添うように。全体が「われもの注意!」なのだ。第1小節のヴァイオリンのリズムはとても難しい。ピアノのスタッカートはとにかく肩の力を抜いて。すとんと肩を落として。高齢になったルビンシュタインは体が不動という感じだった。余計なことをせず体を楽にしているようだった。
 (第4楽章)
*焦らずに曲想をつかんで音楽をしてほしい。ここでは何小節もたってから、意味のあることが言われている。かつてエドウィン・フィッシャーがある女性ピアニストの演奏について、「お嬢さん、あなたの演奏はシャンペンの泡ではない、ビールの泡だよ。」といったことがある。
*最初の曲の雰囲気とその次の曲想の変化をどう表現するか、そこが考えどころだ。
*49小節目からのストレッタのところ、ヴァイオリンとピアノの絡み合いを十分気を付けて表現するように。
*(第4楽章全部をもう一度演奏してもらった後)二人ともあまり必死にならないで。終わりの6小節、ピアノはヴァイオリンを弾いているつもり、ヴァイオリンはピアノを弾いているつもりになれるかな。こんなことがアンサンブルの妙なのだ。よく見れば見るほどバッハの音楽は際限なく面白い。

 ここで大きな休憩の後、コンサートに移った。前回と同じく、ヴァイオリニストの桐山建志さんと小林先生の共演である。曲目はヴェラティーニ(1690~1768)ソナタ ニ短調(J. サルモン編曲)、そしてバッハのソナタ第2番イ長調BWV1015、同ソナタ第5番へ短調BWV1018。初めに、小林先生は、ヴェラティーニのソナタについて、この編曲でジャック・ティボーも演奏している。作曲家のかなり思い切った自由な編曲だろうが味がある。ヴェラティーニと思って聞いて腹が立つ人もいるかも、と笑わせた。バッハの演奏はレッスンで伺われた通りのち密さと自在さにみなぎっていた。そしてアンコールとして、バッハの平均律ピアノ曲集第一巻の第12番、へ短調の前奏曲がヴァイオリンとピアノによる19世紀末の編曲(編曲者はワグナーの同時代人、W.ヴァイスハイマー)で演奏された。ここにも小林先生の機智がうかがわれた。(記録者:西谷晋)




ブラームスのクラリネットソナタ第1

講師:四戸世紀(クラリネット)

日時:2015年11月21日(土)15時スタジオ・コンチェルティーノ


 今日は晩秋にふさわしいブラームス晩年のソナタのセミナーである。まず、岡山潔TAMA音楽フォーラム代表から、講師の紹介があった。四戸さんとは40年の付き合いで、それぞれドイツのボンとベルリンで活動していて、一緒に室内楽をする仲間だった。最初から意気投合した。単なる管楽器奏者ではないと感じた。あとで、クラリネットの前にヴァイオリンを学んでいたことを知った。それもあり今日の四戸さんの指導とアドヴァイスに注目したい――。四戸世紀氏は東京芸術大学を卒業後、カラヤンに認められて、1974年、ベルリンのカラヤン・アカデミーに留学、カール・ライスターに師事。1975年ベルリン交響楽団に入団、その後北西ドイツフィルハーモニーの首席奏者を経て1980年、ベルリン交響楽団の首席奏者として再入団、1995年から読売日本交響楽団首席奏者に就任した。現在は東京音楽大学などで教鞭をとっている。
 レッスン曲はクラリネットソナタ第1番へ短調op.120-1で、受講生は東京音楽大学大学院の土岐香奈恵さん(cl.)と鈴木菜穂さん(pf.)。第1楽章アレグレット・アパショナートを演奏した後、指導が始まった。四戸さんはまず今日の成り立ちに注意を喚起した。ブラームスは晩年生きる意欲を失いかけていたとき、ドイツ・マイニンゲン宮廷オーケストラのクラリネット奏者、リヒャルト・ミュールフェルト(1856~1907)に出会い、大きな刺激を受けた。(ミュールフェルトは最初ヴァイオリニストとして入団したから、経歴が四戸さんと似ている)。それで、ブラームスは三重奏曲(作品114)、五重奏曲(作品115)、ソナタ2曲(作品120の1と2)の名作を生んで、彼にささげた。
 第1番のソナタの第1楽章冒頭のピアノの旋律はブラームスの生涯のモチーフと考えられる。彼はすでに作品1のピアノソナタの第2楽章で同じ旋律を書いている。バッハの「マタイ受難曲」の最後のコラール「いつの日かわれ去りゆく時」(Wenn ich einmal soll scheiden)の連想もある。ブラームス晩年の想いがここに表れている。このソナタの第1楽章の最後は長調となり、天上へ昇るがごとく終わっている。このような感じで第1楽章をもう一度演奏するよう促した。主な指導の要点は以下の通り。
*クラリネットの最初のフレーズの中に音域(音程)が大きく跳躍するところがあるが、それを意識してよく表現してほしい。また、ピアノ伴奏でヘミオーラ(変拍子)が出てくる。伴奏が2拍のヘミオーラ、クラリネットが3拍子。これもこの曲の特色である。
*(53小節からの)ma ben marc. のところは雰囲気を変えて、焦燥感、追い立てられる感じがほしい。
*90小節のダブルバーは違う世界に入る扉だと考えてほしい。97小節のピアノはもっとはっきりと。117小節からの3連符と2連符のかみ合わせはブラームスの特徴の一つで、ピアノが3連符をしっかり弾かないと立体感が出てこない。
*コーダの最後はソット・ヴォーチェだ。第3交響曲の第4楽章の最後とも似て、つまり「小声でそーっと」なのだが、小声で大切なことを言うのだ。
〔第2楽章〕
*テンポをもう少し遅めに。2小節目の旋律はシューマンの第4交響曲の出だしをブラームスはイメージしている。ピアノの伴奏はブラームスらしくなく、少しジャズっぽい。つまり第1楽章と違う雰囲気を出している。23小節からのピアノのドルチェのところは違う世界に入ったという表現がほしい。43小節以下のピアノはよくディミヌエンドしてほしい。49小節以下のピアノはジャズのアドリブほどでなくていいから、もう少し味わいを出したい。
〔第3楽章〕
*すこしあわただしい。アレグレット・グラチオーソらしくもっと丁寧に。出だしのクラリネットは第2楽章の最後の音を引き継いでいる。だから優雅に吹いてほしい。4小節までの第2楽章のイメージの後、レントラーとなる。ドイツ風3拍子の踊りの感じを出すように。
*39と40小節はピアノが休む。だからここのクラリネットは少し目立つように演奏したい。また、67小節から同じ旋律を2回繰り返すので、2回目は少し変化をつける。
〔第4楽章〕
*出だしの鐘の音のような響きをよく意識して演奏するように。
100小節目の第4拍は強調して、単調にならないように。しかし力まないで落ち着いて。
142小節以下のクラリネットは考えすぎずにこの楽章冒頭のピアノの音型をpで繰り返すだけでよい。
 以上でレッスンが終わり、岡山代表がレッスンに触れて、第1番のソナタ冒頭のモチーフはヴァイオリンソナタ第3番の第1楽章の第1主題にも実は同じものがあると指摘した。それに対して、この「さよなら」のテーマをブラームスはクララ・シューマンに書き送っていると四戸さんは応じた。

 休憩の後、コンサートとなり、ブラームスのクラリネットソナタの第2番が演奏された。ピアノはパリ中心に欧州で活躍してきた島田彩乃さん(上野学園大学講師)が受け持った。クラリネットの柔らかい響きにピアノが見事に応え、その中にブラームスの晩年の寂寥と情熱の名残を残す演奏となった。
 アンコールとしてブラームスの歌曲作品105の1「調べのように」(Wie Melodien zieht es mir)がクラリネットとピアノの編曲でこの夕べにふさわしく演奏された。
 最後に岡山代表が、今日のセミナーの締めくくりとして、このソナタはヴィオラ版よりもやはり原曲のクラリネットのほうがよりふさわしいと考えるかどうかと率直な意見を求めると、四戸氏は「第1番は実はヴァイオリン版も自分はなかなかよいように思う。しかし第2番はやはりクラリネットだ。ブラームスはクラリネットの息継ぎをも見事に音楽に取り入れている。ヴィオラでの演奏も素晴らしいが、高音域の音色感がヴィオラでは出にくいかもしれない。」と遠慮がちに応じた。(記録者:西谷晋)。
 

セミナーアルバム

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